決闘 その5
息を吐ききって思いっきり吸う。息を整えながらジョンを見る、というか観察をする。
硬そうだった爬虫類の皮膚はズタズタにヒビ割れ裂けて全身から血が──赤い血が流れていた。
「ジョン、降参しろ。オレの──超音波共振攻撃(仮)の方が射程距離が長い。アンの言うとおりもう勝ち目はない」
とはいえ油断して近づいたら、逆転されるのは自覚している。
亜人化したジョンの方が腕力ははるかに上だからな。
超音波共振攻撃からダメージを避けるために丸くなっていたので、背中の方がかなりひどい傷を負っている。
たぶん治療しないと出血多量で死んでしまうくらいだろう。
「ち、調子に乗るなよサーチ。絶対、ゼッタイ、ぜぇったい、ぜぇーったいにお前を殺してやるからなぁ。──異能力カメレオン!!」
その瞬間、ジョンの姿が消えた。いなくなってしまった。
「な? どこに行ったジョン」
近寄って探そうとしたが、警戒心がそれを止める。[エコーズ]で見ているがまったく見えない。ジョンが……消えた?!
棒立ちしていると、後ろから女王の声がする。
「どうした従者サーチ、というか何をやっているのだ」
「ジョンが消えた」
「ジョンとは?」
不思議そうに訊き返す女王に違和感をもつ。だが。
「サーチ、何してるの? アリントならもう襲ってこないわよ」
今のはアンだろうけど……え? アンもどうしたんだ?
「ふたりともどうしたんだ、さっきまでオレとジョンが……あれ? なにしてたんだっけ……」
ぐるりと周りを見る。
5メートルくらいの幅の地下通路に無数のアリントが輪になり、その中心を向いて端の方にオレが立っている。
背後には壁を背にし切り出し石に座っているアン。
その両傍らにはボゥロとディフィが横たわっている。それで……いいはず……なんだが……。
何かがおかしい、だがそれが何かわからない。
だいたいオレはさっきまで何をしていたんだ。
どうして服が破れている、どうして腹が痛い、どうしてこんな状態に……。
「アン、それに女王、何かおかしくないか」
振り向いて話そうとしたが、何故か身体が動かない。背を向けるなと何かがオレに告げる。
「いやべつに──そういえばアリントが騒がしいな」
「どんなふうに」
「血の匂いがするのに、どこから来ているのか分からないらしいぞ。私たちは誰も怪我していないというのに」
「いや、さっきまでオレは怪我してたけど……え? なんで怪我してたんだっけ? 腹に穴をあけられて死にそうになってたよな?」
「べつに怪我などしていないではないか」
「それは……アンが祝福の吐息で治してくれたから……」
泣き叫びながら治してくれたアンを思い出した。
アンを泣かしたヤツに怒りと許せない気持ちが湧き出てくる、そうだ、ヤツを許すわけにはいかない、逃がすわけにはいかない、絶対に見つけてやる、アイツを……。
「……逃がさないぞ、ジョン! そうだ、ジョンだ、オレはジョンと戦っていたんだ!!」
ようやく思い出した。
いつの間にか忘れていた、ジョンがいないと思いはじめていた。
これか?! これがジョンの異能力、カメレオンというやつか?!
「アン、思い出してくれ。オレはジョンと戦っていた、お前を襲った最低ヤローだ、カメレオン亜人の異能力者で姿を消すことができるヤツだ」
オレの怒りを込めた言葉に、すこし怯えた感じだったが、記憶を思い返す仕草をしばらくしてから、ハッとした表情になる。
「思い出した、そうよ、ジョンよ。アイツどこに行ったのよ」
「おそらくこれがアイツの奥の手なんだろう。見えなくなるレベルじゃない、居たことすら忘れてしまうくらいのことができるんだ」
「……認識阻害ってこと? ヒトは[見よう]とする意識と[見られる]という意識があるから[見る]ことができると聞いたことあるわ。なら、[見られる]という意識を消せば《《そこに居ても気づかれない》》ことができるって……そもそも……」
「アン、講義はいい。今はジョンを見つけ出すことが先決だ」
これ以上は聞けない。
なぜならアンの言葉がオレだけでなく、女王からも遮られたからだ。つまり決闘は続行している。
[エコーズ]で見ても全然分からない。
なぜ見えない? オレの[見たい]という意識よりジョンの[見られたくない]という意識の方が強いからか。
──《《異能力は意志の強さで強弱が決まる、この能力を使うという意志、どんな能力かと認識する意志》》 ──
それがオレよりジョンの方が強いということか。
どうやって見つける? どうすれば見つけられる?
──まてよ、そういえば昔トカゲをつかんだ時は──気がつかなかった。変色して目立たなかったのと動かなかったからだ。
それだけだと思っていたが、アンの言うとおりならトカゲも[見つけられたくない]という意識でいたはずだ。
つまり近づいて触れば否応なく[見つけられる]。
だがものすごい腕力で間違いなく返り討ちにあう。なら文字どおり[見つける]しかない。
「そうか、視点を変えればいいんだ。[エコーズ・クリア]」
コンピューターグラフィックスのような風景に変わる。
これなら違和感のある場所が……見つからない?!
何故だ、本当に決闘の場所の何処にもいないぞ!?
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