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迷宮マスター  作者: 藤井ことなり
第1部 女王の帰還
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決闘 その4

 ところが意外にもハッタリではなく、本当に攻撃ができたらしい。アンは続けて話す。


「サーチはあなたと違って亜人になりたくないの、だから変身せずに使える能力[エコーズ]ひとつだけを《《応用》》することで攻撃できるようになったのよ、つまり──」


「うるせぇ小娘、結局アドバイスしてるんじゃねえか。こんな出来レースやってられるかぁ」


 たまりかねたのか、ジョンは舌をアンに向かって伸ばす。


 しかし、アンの傍らにいるボゥロ達のさらに隣のアリント達が口から何かを吐いた。


「うぎゃあぁぁ、痛え、痛えぇ」


 舌にそれがひっかかって、ジョンは舌を戻してのたうちまわる。それが落ちた床は溶けていた。


「中立の立場である私に危害を加えようとすると、アリントが黙ってないぞ。アリントは酸を吐く、いわゆる蟻酸というやつだ。そして子孫アン、此奴の言うのもその通りだ。ゆえに発言をあと3回まで許す、よいな」


 [エコーズ・バット]で内緒話できるようになったゆえの対処か。女王は本当に中立でいようとしているんだな。


「そんなあと3回だなんて」


「あと2回」


「ちょっと、厳しくない」


「あと1回」


(アン、黙れ。せっかくの攻撃方法が伝わらないじゃないか。その1回で伝えてくれ)


[エコーズ・バット]で自分が何やってたか気づかされたアンは、慌てて黙る。


(いいかアン、その1回で攻撃方法の基本を伝えてくれ。あとは自力で応用する──返事はいい、絶対するなよ、攻撃方法だけ言うんだぞ)


(う……)


 うっかり返事をしかけたアンが、ぐっとこらえる。あっぶねー、ラストチャンスを逃すところだった。


「まったく先が思いやられる子孫だな。短慮で短気、それでは人の上に立つことはできぬぞ」


「誰が短気で短慮よ」


「そういうところだよ。今後一切の発言を禁ずる」


(バカーーーーー!!!! どうするんだよ、どうやって攻撃するんだよ)


「従者サーチよ、子孫アンはじゅうぶん手がかりを伝えているぞ。そろそろ自力でやれ」


 女王の厳しい言葉に思わず首を引っ込める。


 手がかりって──そんなヒントもらったか?


 コウモリってどんな攻撃をしたっけ。噛みつくの? オレが? ジョンに?


 戸惑っているうちにジョンが大人しくなり立ち上がる。


 さっきまでのナメた態度、バカにしていた態度ではなく、憎悪と悪意に満ちた空気をまとっていた。


「くっそがぁ、てめぇら絶対にゆるさねぇ、なぶり殺しにしてやる、生きているのがイヤになるくらい地獄を味わわせてやるぅ」


 ゆっくりとオレに近づいてくる、まずはオレからかよ。


 ジョンの射程距離である3メートル内に入っても得意技である舌を出さない。


 蟻酸で傷ついたのが治ってないのか。遠距離攻撃ができないからまたカギ爪で攻撃するつもりなのか──ん? 遠距離攻撃って……。


 無言のままジョンがまた腹を突こうとしたが、[エコーズ・バット]で避ける。間髪入れず逆の手で突くがそれも避ける。


 まずい、その手できたか。


 いくら[エコーズ・バット]で来るのがわかっても、連続攻撃されては避けきれなくなる。


 腹を穿くほどの威力がある腕力、当たればそれっきりだ。避けまくるしかない。


 くそ、せっかく攻撃方法を思いついたのに。


 攻撃を避けているうちにアンの反対のところに追いつめられた、後ろはアリント、逃げ道なし。


「喰らいな」


 勝ち誇ったジョンの一撃を喰らう──ぎりぎりまで引きつけるとしゃがんで横に転がる。


 ジョンはそのままアリントを殴るかたちになったので、怒ったアリントにまたもや蟻酸をかけられてのたうちまわる羽目になる。


 その間にオレはアンのところまで移動し、背を向けて呼吸を整え深呼吸をし、思いっきり息を吸うと、オペラ歌手のように低音で「あーーー」と声を出し少しずつ音程を上げていく。


「なんのつも──」


 傷ついたジョンが、オレの攻撃方法に気づき一気に近寄ってくる。


 だがそれより先に見つけた──ヤツの固有振動数を。


「ふぐぅあぁ!!」


 ジョンの足が止まり決闘場の真ん中あたりでうずくまる。


 その皮膚は小刻みに震えている。


 さらに声を強くしていくと硬い爬虫類の皮膚が裂けはじめた。


「うっぎゃぁぁぁ!!」


 息の続く限り叫んだ。──ジョンがアンを襲おうとした時、怒りのあまり無意識にやったのが、この共振波動だったのだろう。


 あれは無差別に被害範囲が拡大するから、今は使えない。ピンポイントでアレをやれないかと考えたとき思い出した、物質には[固有振動数]があることを。


 難しい理屈はわからないが、足並みを揃えた行進をした軍隊が、その振動のせいで石橋を崩して大事故になった事件を聞いたことがある。


 それは石橋と行進の振動が固有振動数がたまたま同じだったため共振が起こり、丈夫な石橋が崩れたというのが真相だった。


 その時、共振や共鳴というのがあると知った。


 ジョンの硬い皮膚にもあると踏んで、低音から高音にして探ってみたら、共振するのが分かる音程、周波数を感じた。[超音波共振攻撃]──なんて名づけよう──なんて考えてたら息切れしてきた。


お読みいただきありがとうございます。


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