決闘 その2
ジョンの肌が人のそれから爬虫類特有のざらざらした皮に変わる。
目はギョロリとして、左右あらぬ方向を見る。そして指先は鋭い爪となり、舌がムチのように暴れまくる。
──亜人──
間違いなくカメレオン亜人の姿だ。
アリントを先に見てなければ、この変身だけでビビって漏らしていたかもしれない。
だがアンの前でそれはしたくないというのも加わってなんとか平静でいられた。
「ふふん、恐怖で叫ばなかったのは褒めてやる。たいがいの奴らはダンジョンでこの姿を見せると慄いて発狂するか気絶したもんだがな」
「──それをやりたくてダンジョンに来たのか」
「……違うな。小僧、いや、サーチ。お前もより亜人に近くなればわかる。さっきなぜ殺すのか訊いたな。当たり前のことだからだ」
「快楽殺人者め」
「そうじゃねぇ、亜人の方が人間より高等な存在だからだ。下等な人間を殺すのは、人間が他の動物を殺すのと同じなんだよ。なんで殺しちゃいけねぇんだと思うようになる。
それでもオレ様はバカじゃねぇ。劣っていても数でこられたら敵わねぇ。だからストレスが溜まった時、それがバレねぇダンジョンにくるのさ」
──そんな理由で!?
「サーチ、お前に勝ち目はねぇ。だから提案だ、オレ様の手下になれ」
「断わる」
誰がお前なんかの仲間になるか。という拒絶の思いには、オレは亜人になりたくないという気持ちも入っていた。
「まあ聞け。さっき言ったとおり人間には数では敵わねぇ。だが今は違う、これだけの亜人がいるんだ、亜人と人間の間に子供が作れるのはオレ様達が証明している。女を拐ってアリどもに与え、異能力者の軍団をつくるんだ、そうすればオレ様が王様の王国ができる」
「バカか、そんなこと出来るわけ……」
途中でハッと気づき、アンを見る。
「できるさ。アリ共を支配するこの小娘がいるからな。べつに小娘が言うことを聞かなくてもいい。あの能力は子孫に受け継がれるらしいからな。オレ様との間の子にやらせてもいい。そうなりゃ小娘は用済みだ、サーチにくれてやる。どうだ悪い話じゃないだろう」
──悪い話どころか胸クソ悪くなる話だ。コイツ、人の尊厳をなんだと思ってるんだ。
人でなし、というか本当に亜人化すると人間をそんな風に見てしまうんだろうか。
「遅かれ早かれどうせお前もいつかはこうなる。オレ様の手下に──仲間になれ」
最終通告のようにジョンはオレに言う。
……
……
……
今日は人生の転機になるかもしれないと思った。
ずっとソロで、独りでいいと思ってた。
ディフィは短気ですぐ腕力にものをいわせるイヤなヤツだと思ってた。
ボゥロはおしゃべりで口うるさいヤツだと思ってた。
アンは年下で生意気で上から目線のうるさいヤツだと思ってた。
けど
ディフィは仕事に真面目で気配りのできるいいヤツだった。
ボゥロは未熟で集団行動が苦手なオレをサポートしてくれるいいヤツだった。
そしてアンは……大切で、守ってやりたいと思ってしまうくらい可憐な面があるいいコだった。
集団行動も悪くないな……
そう、主義を変えるような人生の転機になると思ってた……。だが……。
「……ジョン、やっぱ断る。ひょっとしたらお前の言う通りオレもいつか亜人化するかもしれないが、それでも人間でいたいんだ。
絶対にお前の言ったとおりにならないとは言いきれない。ある日突然、身体が亜人化して人間の敵になるかもしれない。
それでもオレは人間でいたいんだ。もしそうなったら──ダンジョンで暮らすよ。
今までの人生も大半はダンジョンにいたんだ、そんなに変わらないしな」
オレは自分の意志と生きる方針、そして存在意義を確かめるように、ジョンに断りを伝えた。
ジョンはつまんねぇヤツと言わんばかりの顔をした。
「はん、そうかよ。じゃあお前に用はない、じゃあな。──そうだな、このまま殺されるのも心残りだろう。最後の記念に一発入れさせてやるよ」
そう吐き捨てるように言った。
亜人化したジョンが無造作に近づいてくる。半笑いの表情だろうか、カメレオンぽい顔になっているのでよくわからないが、たぶんそうだろう。
両腕を広げ、好きなところを打ってこいといわんばかりの姿勢でゆっくりと歩いてくる。
硬そうな皮膚だ、以前つかんだことのあるトカゲのソレに似ている。殴ったらこちらの手がずり剥けるだけで向こうはノーダメージだろう。
ヘビに睨まれたカエルとはこのことだな、打つ手がない、ただやられるのを待つだけだ。──いや、それでも一矢報いたい、どこならそれができる──目か。
目ならオレでも傷つけられる、よし、顔を殴るとみせかけて目つぶしだ。
すぐ手前まで来たジョンが止まる。よし、今だ、渾身の力で殴って──
「じゃあな」
ジョンが嫌らしい声で耳元にそう呟いた。
腹に激痛を感じて、ジョンの鋭い爪で貫かれているのを理解した。
「記念の一発はオレ様が入れるんだよ、このままトドメを刺してもいいんだが、自分のマヌケさを呪う時間をくれてやるぜ、生きながらアリどもに喰われるんだな」
ジョンが手を引っ込めると、オレの腹から血が溢れチカラを失い立っていられなくなり……気を失おうとしていた……。
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