覚醒その5
「アリントよ、痴れ者を連れてまいれ」
復旧作業を止めたアリント達が、わらわらと辺りを動き回る。
額から生えてる触覚がピクピク動くが、どうにも探しあぐねているようだった。
「やっぱり逃げたかな」
「ふむ、──いや、何処かにいるな。逃げることはないだろう」
「どうしてそう思うんです」
なんか知らず知らず敬語使っちゃうな。
「あの者は私をアリントの子孫、なんと言ったかな──そうそう異能力者と勘違いしていたからな。私が生きていると知ったのなら手に入れようとするはずだ」
自分の考えに自信があるのか、アンもしくは女王はジョンからの返事を待つ。すると、
「はん、どうやら意味のない小芝居ではなく、本当に女王の人格が宿っているようだな」
目の前にジョンが急に現れた。
「ふむ、どうやらずっと近くに居たようだな」
驚くオレとは対照的に動じない女王、それを見て憎たらしい顔でニヤニヤするジョン──あれ? ジョンてこんな顔だっけ?
たしか金髪の爽やかな好青年というイメージだったはず……。
「──ふむ、どうやら異能力は《《姿を隠すこと》》のようだな」
「まあな。で、決闘の話だがもちろん断る。理由はオレ様にメリットが無いからだ」
「では手ぶらで帰るか。そういう性格でもなさそうだが」
「決闘などせず、小僧をシメて女王を拐うという手もあるが」
「それは悪手だな。アリントに囲まれている以上、それはできまい。自分は姿を隠せても従者や私は隠れぬぞ」
「やってみせようか」
「それも一興だな」
互いに一歩も引かないまま、しばらく互いに睨み合う。
「はん、わかったよ。決闘を受けてやる。ただし条件を上乗せしてもらう。オレ様が勝ったら、あんたとお宝をもらおうか」
「ほほう、ずいぶんと上乗せしたな。あらためて言っておくが、私はアリントの子孫ではないぞ」
「それでもアリを操れるんだろ。話から察するにオレ様たちの子孫にも操るってこったな」
「絶対嫌っ!!」
今のは間違いなくアンの言葉だな。
「サーチ、こいつ等の話に乗らないでよ。ジョンは間違いなく殺人未遂の現行犯なんだから。私への暴行未遂もあるしね、警察に突きだせばいいのよ」
「威勢がいいな。だがある意味密室状態のダンジョンでは、証拠がない限りそれは無理だぜ。ボゥロも言ってたろ、ダンジョンの中はある意味治外法権だ。そこにいるメンバーの意見で決まるんだぜ、ってな」
その言葉を聞いてオレは、ずっともっていた違和感が形をなしていくのがわかった。
アンとはずっと手を握っている。ジョンに分からないようにアンの手のひらに親指で丸を書く。
「ジョン、さっきから女王と話を進めているが、対戦者はオレなんだぜ。オレの意見もきけよ」
「必要あるか? オレ様に殺されて終わるだけだろうが。小僧の意見なんて意味ねぇよ」
「いいからきけよ。たしかにお前の異能力─メレオだったか? あれで暗闇でも見えるお前となら互角だ」
「バカか。同じ見える立場でもオレ様の方がはるかに強いんだよ」
「たしかにな。だからハンデをくれ。それなら決闘を受ける」
「ハンデだと」
「ああ。ひとりパートナーが欲しい。姿を隠せて土砂崩れからも逃れられる異能力を相手にするんだ、それくらいいいだろ」
なるべく普通に話したつもりだったが、裏があると感づかれているようだ。
ジョンは慎重に考えをめぐらせている。
「……いいだろう。ただしパートナーからアリと女王は除外だ。それなら受けてやる」
「そのふたりはダメなのか」
「当たり前だろ。さあどうする」
「ボゥロは怪我をしているから問題外、ディフィはアテになるが暗闇では見えない。オレとくっついて戦えば、かえって互いにジャマになるんだ。アリントか女王ではダメなのか」
「だからダメなんだよ。他のにしな」
「……わかった、その条件でいい」
この会話の間、アンには時々丸を書いてサインを送っていた。伝わってくれよ。
「ならパートナーは──アンだ」
「女王はダメだって言ったろうが」
「だからアンだよ。一緒に戦うんじゃない、声援が、応援がほしいんだよ」
「はあ?! ……イヤだね。断わる。小娘の声を聞いて暴走されたくないんでな」
「そうか、アレが怖いんだな。それが訊きたかった」
「小僧」
「女王、聞いてのとおりだ。条件の上乗せ分、オレはパートナーとしてアンと戦う。ただし戦闘行為、声援、応援は無しだ」
「ふむ。私もそれが妥当だとおもう。ジョンとやらそれでいいな。でなければアリントとともに徹底的に戦うことになるが」
たしかにそれがこちら側の勝利条件だろう。
だがジョンは《《アリントにすら分からないように姿を消す》》。
こちら、特にアンに被害が出る可能性が高い。だから位置を把握できる決闘を選んだのだろう。
しかし今さっき降臨して状況を把握し、こちらに有利になるよう交渉するなんて、普通ムリだろ。
何者なんだ、この女王様は。
いつの間にかじょわじょわ言いながら囲んでいるアリントを見て、ジョンはしぶしぶ条件を受け入れた。
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