覚醒その4
「ちょっと待ってくれ、あんたはアンなのか」
「エコーズとやらで見れば良いではないか」
「さっき喉をやっちまってまだ使えないんだ。のど飴持ってないか」
「まったく、情けない従者だな。どれ」
誰かが近づいてくる気配がしたかと思うと、両の頬に触られる。何度も握ってきたアンの手だ。
持ち上げられる感じで立たされると、「祝福の吐息」という言葉とともに柔らかいもので口をふさがれる。
……
……
……
……え? ひょっとしてアンの唇……
「なんだ、やかましい──たかが口づけではないか──なんだ初めてだったのか──代われだと──やれやれ、すぐにもどせよ」
なんのひとり芝居なんだろうか。きょとんとしていたら、喉が治っているのに気がついた。
「あん、もう、いくらご先祖様だからって、やっていいことと悪いことがあるでしょ。サーチ、あ、あのね、あれはたまたまだからね、その……そうそう、治療行為、治療行為だから気にしないでね」
「えっと──まずどうなっているか教えてくれないか。まるでアンがふたりいるみたいなんだが」
「そうね──説明するからエコーズで明るくしてくれない」
暗闇の中、当たりをつけて互いに手を取り合うと、オレはエコーズを発動する。そして──なんというかすごい光景を目の当たりにする。
「よかった。見えるって大事──きゃぁ~」
アンの上半身がめくり上がっていて、[私は女よこれが証拠]と訴えるように、片方の乳房と乳首が目に飛び込んできた。
それに気がついたアンは、慌てて手を離し背中を向けてスポブラ(初めて見るが、たぶんそういうモノだろう)とシャツと上着を直す。
身だしなみを整えたのを確認してこちらを向き、おずおずとあらためてオレと手をつなぐ。
「……見た?」
「……うん」
もじもじと恥じらいながら、握った手の平をアンの親指がこねこねといじりまわす。
どうしよう、何か言わないといけないんだろうか。何か話題をと考えていると、周りの異様な光景にようやく気がつく。
アリント達が切り出し石を動かし、復旧作業をしているのだ。
そして足元には気絶しているであろう、ボゥロとディフィが寝ていた。
「アン、これはいったい……。ディフィ、ボゥロ、大丈夫か?」
周りの異様な景色にかまうことなく、オレの言葉に反応したアンは、ディフィとボゥロをしゃがんで確認する。
そしてようやく気がついた。アンが王冠らしきモノをかぶっているのに。
「アン、かぶっているソレはなんだ。それにアリント達はどうしたんだ」
「ああ、彼らはもう私たちを襲わないわ。このティアラがあるからね」
「すまないが説明してくれないか。ジョンがいつまた襲ってくるかわからないんだ。はやく状況を把握したい」
わけもわからずにディフィ達を起こしても混乱するだけだ。優先すべきは状況把握だ。
大きな怪我がないのを確認したあと、アンは立ち上がり話しはじめる。
「このティアラは、あの宝箱の中身で、私に呼応してロックが外れたの。私は……この王国の女王の子孫……らしいの」
また妙なことを言い出したぞ。頭を打ったかな。
「変な顔しないで、私はいたって正気よ。このティアラは王族の物で、その子孫が来るのを待っていたのよ。アリント達に護られながらね。
本来は上のトラップと思われた宝箱に触れると壁に刻まれた古代文字を読めるようになって、正しい順序で下の神殿に着くようになってたらしいの」
「なんでそんなことが分かるんだ」
「このティアラには、ご先祖様の記憶というか人格が入ってるの。さっきのも何代目かの女王よ。私の記憶を読みとって助けてくれたの。だ、だからさっきのは治療行為だからね、私じゃなくて女王様としたんだからね」
そんなに念を押さなくても……。
「それと……私、汚されてないから、何にもなかったからね」
「ああ。わかってるよ」
そのことを思い出したらジョンに対する怒りがぶり返してきた。あの野郎、よくもアンを──。
「もういいだろう、代わるぞって──そりゃそうだけど──」
またひとり芝居が始まった、というか、脳内もしくは意識同士の会話をしているらしい。
正直、半信半疑だが、喉を治してくれたのは間違いない。
ジョンとの対決をすることを想定するなら、治療行為ができるご先祖様の方がありがたい。
押し問答の末、アンが引っ込み、女王様が出ることになった。
「まったく、先祖をもっと敬わんか。で、従者よ」
「サーチって名前があるんだが」
「従者でかまわんだろう」
「……なんでもいいよ、女王様。で、ジョンの異能力について何か知ってるのか」
「知らぬ。だが子孫に不埒な真似をしたことは許せぬな。従者よ、倒すがよい」
「どうやって? というかもう襲ってこないかも」
「それは無いな」
そんなことも分からないのかと言わんばかりの返事をしたあと、凛とした声で周りに向かって言う。
「聞け、痴れ者よ。我が従者との決闘を申しつける。そなたが勝てば先ほどの不埒な真似は許してやろう。どうだ、矜持があるなら出てくるがよい」
ち、挑発しやがったーーー!!
「まてまて女王、オレじゃ、ジョンに敵わない……」
「あの程度の者におたおたするな。どうやらまだ経験が足りないようだから、いい機会だ、経験値とやらを増やしてこい」
聞く耳を持ってねぇ、ほんとに女王様だよ。
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