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迷宮マスター  作者: 藤井ことなり
第1部 女王の帰還
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覚醒その3

 アン達のいるあたりの床というか天井に向かって吠えると、地響きを立てて振動しはじめ、アリントは動きを止め、ディフィとボゥロは耐えられないとばかりに耳を塞ぐ。


 それでも「やめろぉぉぉーーー」と吠え続けると、ついには天井が崩れ落ちる。


「アン」


 落ちてくる大きな切り出し石の雨のなか、ディフィはアンを助けに突っ込んでいく。


 オレは自分自身になにが起きたか分からずに、喉が枯れるまで吠え続け、ようやく我に返ると土埃の舞う暗闇に立ち尽くしていた。


 な、何が起きたんだいったい。


 状況を知ろうとエコーズを使おうとしたが、喉が腫れて使えない。


 まるでプラムを呑み込んだように塞がっていて、話すどころか呼吸するだけで精一杯だ。


 ──だ、誰か、誰かいないか──


 自分でも出しているのかどうか分からないくらいの微かな声で言うが、当然のように反応はなかった。


が、


 後ろから腕で首を絞められた。ただでさえ息ができないのに、苦しさが倍増する。


「まったく、とんでもねぇ異能力(ジーン・ギフト)だな。エコーズだっけ、どうやら超音波を出せる能力らしいな」


 この声は、ジョンか。生きてやがった。


 ──よく生きていたな──


「はん、オレ様の異能力(ジーン・ギフト)ならあんなの簡単にかわせるさ。よくも雌の異能力者(ジーン・ホルダー)を殺してくれたな。めったに会えないんだぜ希少種だからな。しかもあんなに若くてキレイなのなんて、もう手に入らねぇだろうな」


 ──アンが──死んだだと──


「あんな土砂崩れで生きているわけねぇだろ。まったく腹の虫がおさまらねえ。お前だけはこの手で殺してやるよ、光栄に思いな」


 ──だ、誰が──


 腕をふりはらおうと暴れるが、ものすごい力で外れない。


 こ、こいつ、違う。《《オレの知っているジョンじゃない》》。


 意識が薄れていく……、このままでは……、


「天界にいるシーカーによろしくな」


 ……親父……


 薄れていく意識のなか、親父のことを思い出す……


「ふんっ」


 オレは当たりをつけてヒジ打ちを後ろにかます。軟らかい感覚、わき腹あたりに当たった感じだ。


「うをっ」


 首を絞めてる腕が緩む、今度は当たりをつけてジョンの足の甲を踏んだつもりが外れる。


 なので、このへんだろうと今度は股間を後ろ蹴りする。


「ってぇ」


 今度は当たった。


 そして完全に緩んだ腕から脱出して、転がり闇に紛れ込む。


「っの野郎、ムダな足掻きをしやがってぇ」


「はぁはぁ、親父の口癖を教えてやる。[最後まで諦めるな]だ」


 少し話せるようになったが、異能力(エコーズ)はまだ使えそうにない。時間を稼がなくては。


「サーチ、隠れているつもりだろうがオレ様の異能力(ジーン・ギフト)あいてならムダだぜ。異能力メレオ!!」


 なに? 名乗った(コール)?


「はん、どうやら異能力に関しても素人のようだな。

 異能力は意志の強さで強弱が決まる。この能力を使うという意志、どんな能力かと認識する意志、そのためのルーティンが、名乗ることなんだよ。わかったか小僧」


 暗闇でガレキに這いつくばって隠れていたオレを、まるでそこにいるのを知ってるように向かってきて、背中を踏みつける。


「ぐっ」


「バレてるんだよ、小僧、オレ様の股間を蹴ったお返しだ」


 今度は頭というか顔を踏みつけられる。


 くそ、本当に見えてるようだな。異能力(エコーズ)はまだ使えそうにない、ヤバいぞ、知識も経験も異能力もジョンの方が上らしい。


 このままでは負ける、殺されてしまう。


「あばよ、小僧ぉぉぉ!!」


 ジョンが全力で踏みつけるその時だった。


 ガラリ、と岩が動く音がした。


 どこかが崩れた音か、と思ったら、その音はどんどん増えていく。ジョンも異変が起きたと思ったか踏みつける力が抜ける。


 「な、なんだ、なんだ、岩が動いてるだと、何故だ──アリか!? アリどもが岩を動かしているのか」


 アリントが岩を動かしている?! まさか──。


 淡い期待だった。


 ラッキーウーマン──じゃなかった、ラッキーガールのディフィが助けにいったんだ、ひょっとしたらと願っていた。


「ふむ、どうやら間に合ったようだな。従者よ、よく頑張った、礼を言う」


 え? だれ?


 崩れた天井のガレキのあたりから聞こえた声は、覚えのある少女に間違いないが、雰囲気が全然違う。


「アリントよ、うぬらの女王との古(いにしえ)の契約により、我に従え。我はこの国の女王なり」


 凛と響く[声]により、空気が変わったのを感じた。


 踏みつける足が緩んだので、掴まえてやろうとしたが、ジョンはすでに離れていた。


 素早い。そして危機管理能力が高い。少なからずジョンに恐怖心が湧いてくる。


「従者よ、此方に来い」


 逆らえない威厳のこもった言葉に、異議を申し立てる。


「誰が従者だ。暗くて見えねぇよ。女王様はどこに居られるのですかぁ」


「ほう、なかなか肝がすわっておるのぅ。アリントよ、ヒト族をすべて連れてまいれ」


 え?


 オレのナメた言い方に対して、謎の女王様はアリントに命令する。


 叫びながら抵抗したが(だって怖いし)無駄だった。


 担がれて運ばれると雑に下ろされる。


 喰われずにすんでよかったとだけ思った。


「ふむ──此奴がサーチというのか──うむ──サーチとやら、エコーズを使うがよい」


お読みいただきありがとうございます。


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