覚醒その2
アンが異能力者──だと。
「どおぉうだぁぁ、驚いたかぁぁ。間抜けなお前達がもたもたしている間に壁画と古代文字を解読し、お前たちがお宝を持ってくるか、全滅するのを待ってたのさ。お宝を持ってきて全滅のシーンを見せてもらえる、最高だぜぇぇ」
なんだアイツ──というかオレ、なんかに覚えがあるぞ……。
思考が止まったオレに代わって、ボゥロがジョンに噛みつく。
「ジョン、お前に創作の才能があるのは分かった。刑務所に入ったら小説を書くといい、面会するときに読んで感想を言ってやるよ。なんなら出版社を紹介してもやるぜ。
だがすぐわかる嘘はよくねぇぜ、落とし穴の幅はどう考えても飛び越えられねぇ大きさだ。それに古代文字を解読しただと。アンみたいな天才のつもりか。それこそ長い年月をかけて学んでないと無理だろうが。
それにお宝を持ってくるとは限らないだろ、俺が言ったことはハッタリかもしれない。そこで立ち尽くしてるお前に、そこまで分かるわけないだろう」
この緊急状態でよくそこまで舌がまわるな。舌を巻くぜ。
だが言われたジョンはせせら笑う。
「相変わらず口先は達者だなボゥロ。そのよくまわる舌で口説いたキャサリンとはどうなった? まだ夫婦でいられたのか? お前のことだから浮気して慰謝料請求されてるんじゃないか? ギルマスのトーマスと取りあって殴り合いになったよなぁ」
「ちょっとまて、そりゃ何人目のキャシーのことだ。トーマスと取りあったキャシーならアイツのワイフだぞ。てか、なんでそんなこと知ってるんだ」
「その場にいたからに決まってるだろ」
「その場って……あれはもう10年以上前の話じゃないか。お前がいるわけないだろうが」
「いたんだよ。サーチ、お前の親父がシーカーだと知った時は驚いたよ。さすがに親子二代の最後を見られるなんて初めてだからな。いい断末魔を聞かせてくれよぉ」
ジョンの突然の言葉に耳を疑った。親父の最後を見ただと。そんなことがありえ……。
「……ジョン、まさかあの時の行方不明者はお前なのか」
「ははは、さすがは異能力者だな。効きが悪いぜ」
効きが悪い? なんの? 異能力者だから? つまり──
「おまえ……異能力者なのか」
オレの半分疑問形の言葉に、まるでダンジョンに響き渡るようにジョンは大笑いする。
「その通りだ、サーチ。オレ様は異能力者だ。なんのかは教えてやらないがな。だがそうだな、今はじつに気分がいい、すこぉしだけ教えてやるぜ」
アンは宝箱を抱えたままジョンに羽交い締めされて動かない、おそらくチャンスを待っているのだろう。
ボゥロとディフィもアリントに注意しつつ、何か動きがあったらチャンスに変えるつもりで様子をうかがっている。
「ジョンというのは偽名だ。本当の名前は教えてやらない。異能力者だがどんな能力かも教えてやらん。
オレ様は昔から冒険者とともに迷宮に入り、わざと連中を迷わせた。
そして連中が迷い、苦しみ、断末魔を叫びながら全滅するのを見るのを楽しみにしてたのさ。
そのためにわざとトラップに引っ掛けたり、パーティーメンバーを不仲にしたりしてな」
「うわ、サイテー」
アンが思わず口走る。
「ありがとよ。あとでどんな最後を見てきたか教えてやるよ、寝物語にな」
ジョンの言葉に、アンよりも早くディフィが嫌悪感むき出しで噛みつく。
「このクソ野郎、アンに妙なことしたら八つ裂きにしてやる、今すぐその薄汚い手を離しなっ」
「やれるもんならやってみな。そうだな、お前達の見てる前でやってもいいか。そのほうが面白そうだ。異能力者同士でできた子はどんな能力を持つか楽しみだ」
そう言うとジョンは片手で押さえたまま、もう片方の手で無造作にアンの胸を揉みしだき、アンの叫び声が響き渡る。
「やめろー、クソ野郎、アン、逃げて、あたし達のことなんかどうでもいいから、逃げてー」
ディフィがすがるように壁につき登ろうとするが、無理だった。
「アン、ディフィの言うとおりだ、逃げろ、逃げてくれ」
オレもそう叫ぶしかなかった。
なにが異能力者だ、肝心なときに何にもできやしない。
なにが異能力エコーズだ、暗闇で視えるだけの能力じゃないか。こんな役立たずの能力でどうしろというんだ。情けない。
オレ達の願いが届いたのか、アンは隙をみて宝箱でジョンの頭を殴り羽交い締めから脱出する。
だがすぐ捕まり頬を叩かれる。
「あう」
ゴロゴロと宝箱が転がる音がし、アンが倒れる音がした。
上の床の奥に入られたのでエコーズでも見えない。
そして状況が変わったのだ、アリント達が登りはじめたのだ。
「うわぁぁあぁあ」
ボゥロが悲鳴をあげる。ディフィはかまうことなく壁から登ることに挑み続ける。
そして上では──アンの泣き叫ぶ声が聞こえてきた。
「やめろ、やめてくれ」
無気力な自分を呪った。パーティーメンバーを、アンを助けてくれ。誰でもいい、この状況をなんとかしてくれ、情けないオレをどうにかしてくれ。
「いや、やめて、やめて、サーチ、サーチ助けてーーー」
アンの助けを求める声に、オレはかつてない声で怒鳴る。
「やめろーー、やめるんだーーー」
その時、喉の奥が熱くなり怒鳴り声が咆哮のごとく響きはじめた。
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