覚醒
オレから離れたディフィはライトを点け、アンを肩に担いでガレキ山を登る。
その後ろ姿は頼もしく、アンは無事に帰れるなと確信した。
「貧乏くじ引かせちゃったなボゥロ」
「まったくだ。だが女を生かすために命を懸けるのが男の本分さ。今のサーチはカッコいい──ぜっ」
「今までカッコ悪かったみたいに言うな──よっ」
「なんだ、カッコいいと思ってたのか──よっ」
這い上がろうとするアリントに、互いに悪態をつきながら手頃なガレキを拾っては投げる。
こんなので撃退できるなんて思ってない。なにしろアリントは数えるのがイヤになるくらいいるのだ。
すでにガレキ山は取り囲まれている。一度に襲いかかられたらおしまいだ──が。
「なんかおかしくないか」
「ああ。襲ってくる──というより──威嚇している──というか──戸惑ってる──のか」
触覚と大アゴをジュワジュワと動かしながら複眼でこちらを見ている。
対人恐怖症のヤツならすでに失禁したうえに気を失ってるだろうな。
「登って来ない……みたいだな」
ならばと、オレ達は少しずつ後退りするようにガレキ山を登りだした。
ディフィはすでに頂上まで来ていた。
小柄とはいえ荷物を背負ったアンは推定60キロはあるはずだ。それを抱きかかえ上に投げようとしていたが、アンがしがみついて投げられない。
「アン、離して。安心して、ちゃんと届くように投げるから」
「ちがうの、そうじゃない、やっぱり私もここに残る」
「ダメよ。あなたが上にいくのがいちばん良い手なんだから」
「でも、でも、でも、」
「アン」
ディフィはアンをいったん下ろし、両手で頬を挟むとやさしくキスをする。
「愛してるわよ」
驚いて硬直しているアンを素早く抱きかかえると、ディフィは勢いをつけて一気にうえに放り投げる。
推定60キロのアンを、余裕をもって数メートル上に着地させる。なんて頼もしいんだ。
「うわお、俺が女なら惚れ直すくらい男前だな」
「はっ、残念だったね。最後かもしれないからカミングアウトするけど、あたしは男に興味無いのさ」
ボゥロとふたりで、えっ?! という顔になる。
「結婚してたって言ってたじゃないか」
「してから分かったんだよ。どうしても行為をしたくなくて自覚したのさ」
なんの行為か訊き返すのは野暮だな。
それにアンに対して過保護だなと感じてたのも納得した。となると……。
「ボゥロ、さっきの女を生かすために命を懸けるってやつ、ディフィは対象外か」
「ギリ対象内だ」
「はっ、ありがたいね。けど、あたしは男女平等主義なのさ」
そう言うと、ディフィも手頃なガレキを投げて威嚇しはじめる。
ちくしょう、ディフィがいいヤツと思ってしまったぜ。
威嚇攻撃のガレキはアリントに当たるも、頑丈な皮膚というか黒い鋼のような身体にはまったく効いてないようだった。
捕まったら絶対振りほどけなさそうなマッチョな身体に、噛みつかれたらそのまま首が飛びそうな大アゴ。
それがじわじわと近づいてくる、さすがに怖くなってきた。
「アン、まだか。早くディフィを引き上げてくれ」
上に向かって叫ぶと、ボゥロが続く。
「もちろん俺もだぞ」
「オレはぁ」
「しんがりを頼むぜ」
この場面でそれかよ、と言い返そうとしたが、それよりも酷い場面がやってきた。
「いや、離して、サーチ、ディフィ。ジョンが、ジョンが、うぐっ」
アンの助けを呼ぶ声に、上を見る。
そこにはアンを後ろから羽交い締めにしているジョンの姿があった。
「ジョン、まだいたのか」
「当たり前だ、せっかくのお宝に面白いショーが観れるんだ。帰るなんて勿体無いだろ。アリの化け物に喰われる様、じっくり楽しませてもらうぜ」
せせら笑いながら言うジョンに、眉をひそめる。
あいつ、あんな性格だったか?
「ジョン、冗談はやめろ。はやくディフィだけでも上げるんだ」
「おうおう優しいねぇ。けど心配するな、そこの化け物どもは襲ってこねぇよ。今のところはな」
「どういう意味だ」
たしかにアリント達は多少這い上がってきたが、オレ達とは距離を保っている。
まるで理由があるみたいに、それどころか知ってるような口ぶりのジョンに、疑念がわいた。それはボゥロとディフィもらしい。
「そこの化け物どもは乾眠できるんだよ。それこそ神話の時代から待っていたのさ、この宝物を取りに来る者を」
乾眠──ある種の虫は乾燥などの厳しい環境に対して活動を停止して無代謝状態になるというアレか。
このアリント達もずっと乾眠していたと? 何故だ?
「なんでそんなこと知ってるかって? そりゃもちろん読んだからさ、壁に彫られた古代文字を。《《いつの日か女王の資格を持った者が現れ兵士達に君臨する》》とな」
「女王の資格だと」
「ああ。そいつらどう見てもアリの亜人だろ? つまり女王アリの資格を持った者が現れたんで復活したのさ」
いきなり色々聞かされたので混乱したが、アリントが止まっているのは事実だった。これだけは間違いない。
もしジョンの戯言が真実なら、その女王の資格を持つ者はひとりしかいない。オレ達はその人物に視線を集める。
「そうさ、この小娘こそがその女王、アリ亜人の異能力者なのさ」
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