真のダンジョンその4
「何か感じなかったかー」
宝箱を両手で持ったまま、後ろに問いかける。
「いやー。なんかあったのかー」
「宝箱を持ち上げた時、変な感じが背中を駆け抜けたんだがー」
少し間が空いてから、3人とも何も感じなかったかと言う。
「気のせいかな」
──いや、気のせいじゃない。何かがあった。オレの感覚がそういってる。
今さら戻してもどうしようもあるまい、オレは宝箱を小脇に抱えると、走って戻った。
3人のところまで来ると、早口で早く出ようと伝える。
「どうしたの、なにかあったの」
「分からない。けどここに居たらヤバいと感じてるんだ、急いで脱出しよう」
オレの言葉にただならぬ空気を感じたのか、ボゥロはディフィに肩を借りて後ろにつき、アンはオレと手を繋ぐ。
3人がオレに触れたのを確かめると、異能力を発動させ走りだす。
「オイッチニィ、オイッチニィ、オイッチニィ、オイッチニィ、まさかダンジョンで二人三脚をやるとは思わなかったぜ」
「ボゥロはあたしに担がれてるだけでしょ」
「肩をな。で、サーチ、イヤな感じはまだ続いてるのか」
「ああ。どんどん強くなっている、それも後ろからだ。はっきりと分かってきた、何かが来る」
「そんな……う、うわ、うわ、うわあぁぁぁ」
ボゥロが叫んだので足を止めて振り向こうとした。が、ディフィとボゥロに押されてできなかった。
「な、なんだよふたりとも」
オレの問いには、悲鳴を上げたアンが教えてくれた。
「ば、化け物、化け物の大群が追ってくる」
「なにぃ」
走りながら振り向くと、真っ黒な巨躯の化け物というか怪人が群れをなして追ってきている。
「な、なんだあれは」
「いいから走れ、たぶん友好的で平和主義じゃない奴らだ」
ボゥロの意見にオレたち全員同意し、命がけの二人三脚をやることになった。
「なんだあれ、人間か。どっからわいて出たんだ」
「どっちかっていうとアリだよな。たぶんさっきの穴から出てきたんじゃないか」
「ひょっとしてアレが亜人ってやつ? 生き残りがいたんだ」
「じゃ、アリ人間だから[アリント]ってどう」
「お前、名前つけるの好きだな」
恐怖心をまぎらわすため冗談ぽく言ってたが、走りながらの会話はだんだん息が苦しくなってきたので、いったん切り上げる。
ディフィより頭ひとつ大きくて得体の知れないアリ人間が大群で追いかけてくる。
生まれてはじめての経験だ。迷宮マスターのボゥロも初めての経験らしい。ということは対処の仕方は誰も知らないということか。
たぶんというか間違いなく連中の目当てはこの宝箱だよな。
優先順位を確認。
最優先はパーティーの安全と、無事生還すること。
だから最悪の事態になりそうなら、この宝箱を捨てる。アンには悪いがそうしよう。
「ど、どうするサーチ、ハァハァ、上に逃げるしかないが、ハァ、ハァ、」
そうなんだ、落とし穴はそのままだ。上にあがるのに手間取る、つまり追いつかれる可能性がある。
「──、ディフィ、アンを押し上げられるな?」
「はっ、当たり前だろ」
オレの言葉の意味をディフィは即座に理解したようだ。
「サーチ、どういう意味」
「落とし穴までいったら、オレとボゥロで時間を稼ぐ。その間にディフィの力を借りてアンは上にあがってくれ」
「いやよ、私だけ助けるつもりでしょ、そんなことできない」
「ちがう、そうじゃない。オレはパーティーを無事帰したいんだ。これは最善の手だからだ。いちばん身軽なアンが上に行きロープをたらす、次に力のあるディフィが上がり、怪我人のボゥロを引き上げてもらう、あとは身軽な異能力者のオレが逃げきる。これが最善の策なんだ」
「そんな上手く……」
アンの反論を遮ったのはディフィだった。
「アン、あたしもそれが最善だと思う。あんたなら軽いから上まで投げられるからな」
ディフィもボゥロも、オレの考えが絶対じゃないとは解っているだろう。
だがそれしかないのも解っているはずだ。
アンも納得するふりをするしかなかった。
「決まりだね。なら落とし穴まで全力で行くよ」
そう言うと、ディフィはボゥロとの二人三脚をやめ、ボゥロを身体ごと肩に担いだかと思うと全力で走りはじめる。
オレと離れたら暗闇に戻ってしまうから離さない、だからオレも全力で走るしかなかった。
「え? きゃ!?」
宝箱をアンに預け、そのままお姫様抱っこという持ち方で走りだす。
「へえ、けっこうチカラあるじゃない」
「追い詰められているからな。ディフィには敵わないよ」
「は、性格も素直になったじゃない。あんたは追い詰められて成長するタイプなんだね」
「あんま嬉しくねえな」
「嬉しいといえばアン、よかったね、お姫様抱っこされる夢が叶って」
「でもサーチよ」
不貞腐れて言うから捨ててってやろうかと思ったが、減らず口を叩けるなら安心だな。
このまま逃げ切ってアンだけでも助けてやれる。
ガレキ山が見えてきた。登る前にアンをディフィに渡し、ボゥロに肩を貸す。
みんなで登って、ある程度まで来てからオレとボゥロは振り向いて手頃なガレキを投げつけて威嚇する。
「たのむぞ、ディフィ」
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