真のダンジョンその3
エコーズで見た景色は壮観だった。
ディフィとアンは息を呑み、オレとボゥロは目を見張る。
月輝石で白を基調とした装飾された壁は20メートル程続き、その奥の台に鎮座している箱はなんとも言えない高貴な雰囲気を醸し出していた。
「……これは……」
ボゥロのしぼり出した言葉はあとが続かなかったが、アンが代わりに続ける。
「王族の宮殿のような豪奢な造りじゃない、それよりもっと高貴──いいえ、神秘的な空間」
たしかにそうだ。宮殿ではなく神殿、まさしくそんな感じだった。
「あれでニセモノだったり空だったりしたら、ガッカリするな」
ボゥロの俗な言葉に我に返り、本来の目的を思い出した。
「アン、ここが目当てのダンジョンのゴールで間違いなさそうだな」
「ええ。失われた王国という証拠の遺産、ついに見つけたのよ」
「少なくとも箱は、持ち帰る価値はありそうだな」
空振り、という最悪の事態は回避できることにホッとする。
「じゃあ、行くぞ」
「待って、サーチ。念のためにもうひとつの方──ええっと、そう、クリア。エコーズ・クリアで見てみて」
またもやアンに異能力を名付けられる。何でだろうと訊いてみると、
「あのね、気のせいかもしれないけど、名乗ってから使ったほうが異能力が強く使える感じがするの」
と言われた。思い返してみると、なんとなくそう感じる。
ボゥロとディフィは、エコーズと名乗って使うようになってから体験しているから変化が分からない。
アンだけがその違いを認識している。
そしてもうひとつの方は、名乗ってから使うのは初めてだから、全員で違いを確認できるというわけか。学者は検証が好きだな。
「ま、どちらにせよトラップがあるか調べる必要はあるし、やってみるか。──エコーズ・クリア」
カンと喉を鳴らすと、見えてる景色の輪郭だけを残してあとは透明になる。
「おお」
「これは……今までと範囲が全然違うな」
ボゥロ達が驚くが、オレ自身も驚いた。
今まではエコーズで見える範囲の半分くらいしかできなかったクリアが、ほぼ同じ範囲で見えるようになったのだ。
「異能力を名乗るだけで、こんなに違いが出るのか。なんでだ」
「さあ、そこまでは解らないわ」
「まあ今はおいておこう。本来の目的はトラップがあるかないかを調べるためだからな」
オレの言葉で、全員が調べはじめる。
床の下には空洞は無い。カラクリ的な仕組みも無い。
天井も加工された大きな岩盤のみで、両端の岩盤で支えられている。落盤の可能性はほぼ無さそうだ。
あとは両壁のみだが……。
「変な空洞があるな。まるで人が通る道のような……」
「メンテナンス用か、あるいはトラップか……」
空洞には何も無い。
ボゥロ、アン、そしてオレが確認したがトラップらしきものはなかった。
「となると、あとはクソ度胸だな。3人ともここで待っててくれ、俺が行ってくる」
ボゥロがライトを点け、オレから離れようとしたが、それを引き止める。
「いや、ここはオレが行く。オレならトラブルが起きても異能力で対応できる確率が高い。ボゥロたちはここで待ってて、何かあったら3人で逃げてくれ」
現状ではベストの選択だと思う。
ディフィは知識と経験が無い。アンは知識があっても経験が無い。ボゥロは知識と経験があるが、足を骨折しているからトラブルが起きたとき対処に不安がある。
「そうだな……、分かった、ここはサーチに任せる」
アンが一緒に行くと言いだしたが、オレの本分はガイドだ。
依頼主とはいえ、いや依頼主だからこそ危険な目に合わせるわけにはいかない。
ディフィに護衛を頼んで、オレは神殿の通路に踏み込んだ。
※ ※ ※ ※ ※
月輝石の床は平らに磨かれていて滑りそうになるが、トラップにも気をつけてより慎重に足を進める。
たまに後ろを振り向き、3人がライトでオレを照らし続けているのを確認して、ようやくゴールである宝箱の前に着く。
近くで見ると、なんと素晴らしい出来栄えの箱だろうか。おそらく美術品としても一級品だろう。見てるだけで感動する。
だがそれよりも、宝箱の放たれるというか漂う気配、高貴なオーラとでも言うべきモノに圧倒される。
小脇で抱えられるサイズなのに、オレごときが触っていいのかという気持ちになり、気後れしてしまう。
「サーチ、どうしたの? 大丈夫?」
アンの言葉で我に返り、気を取り直して宝箱を観察し、トラップが無いと判断して蓋を開けようとしたが、開かない。当然か。
「鍵がかかっているようだ、箱ごと持っていくしかなさそうだぞ」
「重さはどうだ」
ボゥロの問いかけに、軽く持ち上げてみるとそんなに重くない。
「そんなに重くない。たぶんアンでも持てるくらいだ」
「なら軽いな」
「ちょっと、勝手に貧弱扱いしないでよ。私だって少しくらい力があるんだから」
「なら、自分の荷物はちゃんと持ちな」
ボゥロにからかわれてアンが膨れる。
ふたりのやりとりのおかげで緊張がほぐれた。思い切って持ち上げてみよう。
そして宝箱を持ち上げた瞬間、オレの脳裏から背すじにかけて、ピン、という感覚が走った──。
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