真のダンジョンその2
「──その後はギルマス夫婦の世話になりながら、ギルドの手伝いをして生活。16歳のときに冒険者登録して異能力を使い、ダンジョン専門の地図屋としてやってきたというわけさ」
「たいへんだったわね」
お嬢様育ちのアンからすれば、過酷な人生をおくっているように感じたのだろうか。
かなり同情的な感じの「たいへんだったわね」だった。
「つまり、極限状態になったから発現した能力だったのか。それまではできなかったのか」
「ああ。[なった]ときは助かったことで頭いっぱいだったが、あとで気がついた。というかギルマスに気がつかされた。で、話を戻すけど異能力者について知ってることを聞きたい」
ボゥロは少し黙ってから、オレだけじゃなくてみんなに向かって話してくれた。
「ま、いわゆる都市伝説とか言い伝えレベルの話なんだがな。
遥かな古代──このダンジョンくらい古い、それこそ神話の時代には人間だけでなく、いわゆる亜人というのがいた。
オオカミ男とかヴァンパイアなら知ってるだろ、そういう奴らがいたんだ」
「はっ、まるで見てきたみたいに言うな」
ディフィがまぜっかえす。
「語り手ってのはそんなもんだよ。で、その亜人種は絶滅して今はいないが、なかには人間と交わってその遺伝子を残している者もいる──それが異能力者だ」
「は、──え? じゃあ、サーチは人間じゃないの?」
アンを護るように抱きしめるディフィに、ああ、やっぱりそうみられるのかと気落ちする。
「──という目で見られるから、異能力者は異能力を言わないし隠しているんだ。だろ? サーチ」
「まあな」
──腑に落ちたことがある。
もともと母はいない、そのことに疑問を思ったことはない。
だが孤児となったオレを、ギルマス夫婦は村外れのオレの家に暮らさせた。まるで存在を隠すかのように。
おそらく独り立ちするまではと、かくまってくれてたのだろう。
「サーチは人間だよ。都市伝説だと言っただろう。本当にそうなのかどうかは解明されてないんだ。
だから俗説で亜人の遺伝子を継いでいるんじゃないか、亜人の遺伝子保持者、それでジーン・ホルダーと呼ばれているのさ。
ま、特異体質と思えば受け入れられるだろ」
「特異体質ねぇ」
「世の中には、普通の人より優れた能力を持っているヤツなんてゴロゴロしているだろ。アンだって17で教授だし、ディフィだって男より怪力だ」
「アンはともかく、あたしは普通の人だ」
「私だってそうよ」
「ならサーチもそうさ、な?」
──物は言いようで、ディフィはなんとなく納得し、オレ自身もなんとなく心が軽くなった気がした。
※ ※ ※ ※ ※
落とし穴のダンジョンはトラップもなく、フェイクの通路も分かれ道もない、ただの一本道だった。
なんにもないなと思っていたところで、ようやく変化が起きた。
「壁の色が変わった」
ずっと濃グレーというかチャコールっぽい石壁だったのに、目の前の両壁は白っぽくなっている。
ボゥロがライトを当てると壁が輝きはじめる。
「こいつぁ、月輝石だな」
「なんだそれ」
オレの質問にはアンが答えてくれた。
「月輝石は蓄光性のある石で、光を当てると輝きはじめるの。でもとても脆くて建築材料には向いてないわ」
「脆い石の壁? ということはこの先はトラップで崩れ落ちるということか」
「いや……」
ボゥロが肩を担がれながら壁によると、ライトを頼りに調べはじめる。
「やっぱりそうだな。月輝石の奥は今までと同じ石壁だ、コイツは装飾の為に使われている」
「というと?」
ふたたびアンが答えてくれる。
「地下神殿や王族の墳墓によく使われているの。今でこそ蓄光性のある石だと解っているけど、大昔は神秘の石として崇められていたから貴重なものだったのよ」
「つまりボゥロの言った通り、アタリの可能性が高いってことか」
オレが感心しかけると、ディフィが皮肉る。
「はっ、さすが盗掘屋だな」
「迷宮マスターだ」
「もと、だろ」
「アタリだっただろうが」
「偶然な」
「ふたりともそこまで!! サーチ、エコーズで視てくれる? 私たちも視るわよ」
ボゥロとディフィがヒートアップしそうなところで、アンが止めに入る。
どうもこのふたりは相性が悪い。ほっとくといつまでも言い合いをして、そのうち罵り合いになるから、旅の途中も何度でもアンが止めに入ったのを思い出した。
「いい? ここまで来れたのはサーチの能力とボゥロの経験のおかげ! 私が無事に来られたのはディフィのおかげ! 誰ひとり欠けてもここには来れなかった! わかるでしょ?!」
「お、おう」
「……はい」
「私もここがアタリだと思うわ、だからこそ気を引き締めないと。ボゥロもディフィも本分をまっとうするときよ」
──すごいなアンは。この中で最年少のくせに、ここ一番というときは誰よりもリーダーシップをとれる。
そして、しゅんとしたふたりをフォローするのは、自然とオレの役目になっている。
「それじゃエコーズを使うから3人とも触ってくれ。本分をまっとうしようぜ」
ディフィが首の後ろあたり、アンが右手を握ってくる。ボゥロは肩を担いでいるからそのまま。
触られたことを確認して唱える。
「異能力エコーズ」
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