第52章
昼になる頃には、彼は汗だくで腹を立てていた。
周囲にではない。
自分自身にだ。
飛び方など、身体が勝手に知っているはずに思えた。翼はある。背中でその存在を感じる。翼の下には風がある。飛びたいという欲求もある。だが一つ動くたび、あまりにも多くの新しい部位を連携させなければならず、以前の技術はほとんど役に立たなかった。
確かに、ケイルの身体は何かを覚えている。
ただし、その記憶は危険だった。融合前のケイルは、この身体で飛べた。魔力回路も、意志も、翼への慣れも今とは違っていた。身体へ任せきると、早すぎる段階で難しすぎる動きをしようとする。
シアナはそれに気づいた。
「身体の記憶に主導権を渡さないでください」
「なぜ?」
「それはあなたの記憶ではありません。それに、今のあなたにはまだない技能を前提にしています」
アズガルも付け加えた。
「戦いと同じだ。記憶は助けになる。だが確かめずに任せれば、他人の失敗まで受け継ぐ」
彼は練兵場の中央に立ち、荒い息をついていた。慣れない負荷で翼が震えている。
「素晴らしい。ケイルの記憶にまで足を引っかけられるとはな」
リラが言った。
「邪魔をしているのではありません。今のあなたには大きすぎる完成済みの道を差し出しているだけです」
「実に外交的だ」
「マルヴェインなら、もっとひどい言い方をします」
「マルヴェインはここへ入れるな」
「もう遅いです」
彼は振り返った。
遠い通路にマルヴェインが立っていた。まったくの偶然でここに居合わせただけだ、とでもいう無実そのものの表情で眺めている。
「国境報告を持ってきました」
「もちろん、ちょうど今だな」
「務めが、折よく私をここへ導いたのです」
シアナが厳しく言った。
「君主様には休息が必要です」
マルヴェインは彼を見て、震える翼を見て、石床の亀裂と安全用の陣を見た。
「そのようですね。国境が行儀よくしていてくれるなら、報告は待たせましょう」
「国境が行儀よくすることなど、めったにない」
「では短く。聖騎士団は動き始め、ベラルは騒ぎ、エストレンは今も自国内のことで手いっぱいです。メラトは最初の文書を提出しました。そして、少なくとも一本の橋は精神的には存在すると証明しようとしているようです」
彼は目を閉じた。
「精神的には……」
「はい」
シアナが憤慨した。
「橋は存在するか、しないかのどちらかです」
マルヴェインは彼女へ微笑みかけた。
「シアナ、あなたを法律家との交渉へ出してはいけませんね。現実を信じすぎています」
「あなたは嘘の中で暮らすのが上手すぎます」
「ありがとうございます」
「褒めていません」
「もう遅いですよ」
彼は手を上げた。
「そこまでだ。飛行訓練を続けるか?」
シアナは測定板を見た。
「あと二回、短く浮上します。それで明日まで休止です。翼の過労は危険ですし、魔力回路にも負荷をかけすぎてはいけません」
「まだできる」
「わかっています。だから『いけません』と言っているんです」
リラが頷いた。
「シアナが正しいです」
アズガルも続いた。
「疲労してからの失敗ほど危険だ」
グロムが加えた。
「だが、そのほうが面白い」
三人の視線が彼へ向いた。
「黙る」とグロムは言った。
彼はあと二度、浮上した。
一度はうまくいった。
一度は失敗した。
失敗したほうでは、身体が横向きのまま四メートル近く飛び、翼が防護の刻印に触れた。刻印が光り、翼が不快な痙攣を起こす。シアナは、彼でさえ反論する気になれない声で、ただちに訓練を打ち切った。
「終わりです」
「シアナ――」
「終わりです」
リラが記録板を閉じた。
「訓練終了です」
アズガルも言った。
「今日は十分だ」
グロムが口を開いた。
シアナが彼を見る。
グロムは口を閉じた。
***
飛行は、新たな訓練として日程へ加わった。
朝がさらに長くなった。
まずはアズガルとの身体制御。打撃、防御、組みつき、受け身。それから短い休憩。続いてシアナと、糸、盾、小さな衝撃、力の保持といった魔法訓練。最後に、魔力回路と筋肉が耐えられる場合だけ、広い練兵場で飛行訓練を行った。
シアナは容赦ないほど疲労を見張った。
「あと一周」
「駄目です」
「一周だけだ」
「駄目です」
「疲れていない」
「左の翼が震えています」
「風だ」
「風はありません」
「なら機嫌だ」
「訓練終了です」
たいていリラはシアナに賛成した。
アズガルもだ。
あまりにも毎回で、疑わしくなってきた。
三日目、また同じことになったあとで彼は言った。
「全員、俺に反対だな」
リラが答えた。
「あなたが飛び方を身につける日まで生きていることに、全員が賛成なのです」
「ずいぶん残酷な支援だ」
シアナが加えた。
「正しい支援です」
予想以上に疲れた。
すぐにではない。飛んでいる間、身体は力と風と新しい動きに歓喜していた。翼が開き、魔法が身体を持ち上げ、練兵場が下へ遠ざかる。その数秒の感覚のためなら、跳び上がり、落下し、シアナに「足さないでください」と言われ続ける屈辱にも耐えられた。
だが負荷は、あとから一気にやってきた。
翼の付け根では、以前なら存在すら知らなかった筋肉が燃えた。背中が疼く。長時間魔法を使ったあとと同じように、魔力回路が重くなった。均衡を取り続けた尾も疲れた。着地を繰り返した脚まで、荷を背負って山を徒歩で登ったようだった。ただし、その山は身体の内側にある。
夕方には、残る力が少なくなった。
訓練、夕食、読書を終え、ベラルの騎士たちが国境でいつもより大声で祈り始めたというマルヴェインの短い報告を聞いてから、彼は私室へ戻った。リラが一緒だった。少し遅れて、シアナが夜の診察に来た。
普段なら、この顔ぶれだけですでに夜の成り行きを予感させた。
だが彼は寝台の端へ腰を下ろし、帯を外して、今後百年ほどうつ伏せで動かずにいたいと悟った。
リラが彼を見た。
シアナも見た。
「何だ?」
「疲労しすぎています」とシアナが言った。
「生きている」
「基準が低すぎます」
リラが近づいて服を脱がせ、翼の付け根を掌でなぞった。痛みがほどけ、彼は思わず息を吐いた。
「今日は眠ります」と彼女は言った。
彼は目を上げた。
「二人で前もって決めたのか?」
「いいえ」
二人は同時に答えた。
そして互いを見た。
シアナは目を逸らしたが、背は向けなかった。
リラはわずかに笑いそうになった。
「慣れます」とリラが言った。
「何に?」
「新しい負荷に」
シアナも穏やかに頷いた。
「はい。慣れます。翼も適応しますし、魔力回路も消費を安定させます。今は身体が動きに慣れていないので、何をするにも力を使いすぎているんです」
「二人とも同じことを言ったな」
リラが答えた。
「なら、真実です」
シアナが付け加えた。
「あるいは、よい仮説です」
「だから俺はリラの話を聞くほうが好きなんだ」
シアナは抗議しようとしたが、あくびが出た。
意外だった。
リラは危うく笑い出すところだった。
「あなたも眠りなさい」
「データを処理しないと」
「明日です」
「でも……」
「シアナ」
彼女は息をついた。
「はい」
数日間、三人はただ眠った。
リラが片側に、シアナが反対側に。翼を圧迫しないよう、慎重に身体を寄せて。




