第34章
彼は儀式を見届けなかった。
嫌悪したからでも、無関心だったからでもない。ただ、それは彼の儀式ではなく、死者たちも――彼女にとってそうであるような意味では――彼の死者ではなかった。
東塔を使うことを許し、清潔な布と水、塩、白い蝋燭を用意させた。剣士と槍兵の亡骸に、女祭司が護衛つきで定められた弔いの言葉を捧げることも許した。火葬のあと、二人の遺灰を小さな瓶に分け、彼女の房へ置くことまで認めた。
リラが確認した。
「房の中に、ですか?」
「そうだ」
「彼女の支えになるかもしれません」
「かもしれないな」
「それでも、お許しになるのですか?」
彼は顔を上げ、リラを見た。
「囚人の房に置かれた二瓶の遺灰を恐れるようなら、彼女の信仰より深刻な問題を抱えていることになる」
リラは異論を挟まず、書き留めた。
儀式は朝に行われた。
その間、彼はシアナと向かい合い、財政報告に目を通していた。
奇妙なことに、それでよかった。
死者には蝋燭が与えられ、生者には税が残った。
特別優遇の廃止は、すでに公表されていた。
減税も同じだ。
宮殿では紙の擦れる音が絶えず、伝令たちが棟から棟へ駆け回っていた。マルヴェインからは諸家の第一報が一覧で届き、別紙にはこう記されていた。
『憤慨は予定どおり進行中』
それを読んだリラは、ここ一週間でいちばん正直なマルヴェインの言葉かもしれない、と評した。
シアナは更新した試算を持ってきた。
今日は、研究室の翌朝よりは落ち着いていた。少なくとも、最初の十分間は。関税について話すのに必要な時間より少し長く彼が見つめると、金属板を操る彼女の指が乱れた。
リラは気づいた。
マルヴェインもだ。
当然だろう。
あの男は、噂の種になりそうなことなら、まだ起きてもいないうちから見抜いてしまうらしい。
「続けてください、シアナ」
リラは平然と言った。その声に棘も嫉妬もなかった。
シアナは深く息を吸った。
「はい。減税の布告を受け、すでに各地の代官から第一報が届いています。大半は控えめな感謝と、別の名目で徴収されるのではないかという問い合わせ、それに、大貴族が『現地での調整』を要求し始める前に監査官を送ってほしいという嘆願です」
「察しが早いな」
「飢えた土地に、人を信じる余裕はありませんから」
シアナは静かに答えた。
彼は頷いた。
「監査官を送れ」
マルヴェインが穏やかに口を挟んだ。
「君主様、財務官だけを送れば、買収されるか脅されます。兵だけなら、諸家は軍事的圧力だと騒ぐでしょう。法務官だけなら、最初の結果が出る前に全員が寿命で死にます」
「案は?」
「混成班を。影国庫、影内務官房、影軍の監視役、それに署名権を持たない現地代表を一名。そうすれば、誰も一人きりでは嘘をつけません」
リラが付け加えた。
「互いを嫌うあまり、買収の働きかけがあれば喜んで報告するでしょう」
「素晴らしい。憎しみを監視制度にするわけだ。記録しろ」
シアナは書き留め、さらに自分から提案した。
「監査には期限を設けるべきです。さもないと諸家は、歓待や道中の儀礼、『偶然』の遅延で一行を足止めします」
「どのくらいだ?」
「一次報告まで十日。最終報告は一か月で」
「それでいけ」
次は諸家からの返書だった。
すでに四家が『深い憂慮』を表明している。一家は直接の拝謁を求め、二家は過去の功績を並べた書類を束で送りつけてきた。そしてメラト家は、十二年前に崩落した橋が『地域の記憶において、今なお戦略的意義を保っている』と立証しようとしていた。
彼はその一文を読み返した。
もう一度、読んだ。
「誰が書いた?」
マルヴェインは楽しげに答えた。
「たいへん高給取りの法律家です」
「処刑はできないのか?」
「文体を理由に、というのは今のところ無理です」
リラが答えた。
「残念だ。まあ、橋の記憶を称えて、過去に遡って債務を問い直す口実にはなる」
その言い回しに、マルヴェインは今にも舌なめずりしそうだった。
シアナがおずおずと手を上げた。
「メラト家には数字で返すほうがよいかと。存在しない橋の警備費として、彼らがいくら受け取ったのか。架け直すにはいくらかかったのか。交易がどれだけ損なわれたのか。図表も添えれば、『地域の記憶』の陰には隠れにくくなります」
「やってくれ」
シアナは頷いた。
「はい、君主様」
その呼び方が耳に残った。
いつもより静かで、半音ほど低かった。
リラも気づいていたが、ただ議事録の頁をめくった。
マルヴェインは目だけで笑っている。
餌を与えないことにした。
正午までに、二十家からの返答と三つの商人組合、五都市からの嘆願、それに小貴族からの苦情を一件処理した。その苦情には、貧困地への減税は『慈悲が義務の秩序へ介入する危険な先例』だと記されていた。
「訳してくれ」
リラが答えた。
「貧しい領地が、玉座には徴税だけでなく保護も期待できる、と考え始めることを恐れています」
彼は手紙を脇へ置いた。
「恐ろしい異端だな」
マルヴェインが笑った。
「長い目で見れば、ええ。下の者たちが、地元の領主より玉座のほうが公正かもしれないと思えば、諸家は厄介なことになります」
「いいことだ」
「あなたはまた、他人の頭痛の種を『いいこと』と呼んでおられますね」
「今日は俺の頭が痛むわけじゃないからな」
シアナが小さく言った。
「それは、どうでしょう」
彼は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「夕方には俺の頭痛になると?」
「おそらく」
「そりゃどうも」
次の手紙は、ほかより薄かった。
紙の話ではない。狙いが、だ。
リラはそれをほかの手紙と混ぜず、別にして置いた。それを見たマルヴェインの目から笑みが消え、シアナも計算から顔を上げる。
「悪い知らせか?」
「礼儀正しい手紙です」
「つまり、悪い知らせだ」
「厄介な手紙、と申し上げるべきでしょう。カルネス家からです」
マルヴェインが低く鼻を鳴らした。
「早いな」
「何者だ?」
リラが封書を開いた。
「東方辺境の有力家門の一つです。名目上は最大の富豪ではありませんが、実際には三つの峠道と二本の交易路、それに国境守備隊への補給契約の半分を押さえています。先代の君主の御代には、四地方における『兵站安定化の暫定管理権』を与えられました」
「訳すと?」
リラより先にシアナが答えた。
「交易の喉元を押さえ、それを治安への配慮と呼んでいます」
「もう気に入った」
マルヴェインが静かに続ける。
「しかも、彼らはほとんど先頭には立ちません。カルネス家が今この時点で書状を送ってきたということは、慎重な抵抗の旗印になりうる家として、すでに一部の諸家が注目しているのでしょう」
彼は手紙を取った。
美しい言葉が並んでいた。
美しすぎるほどに。
カルネス家は『影の領地に正義を取り戻そうとする玉座の志を、謹んで歓迎する』という。カルネス家は『弱小地方の苦しみを理解している』。カルネス家は『地方の不正に対する君主の憂慮を共有する』。そしてカルネス家は、『補給、防衛、地域の平穏に思わぬ損害が及ぶことを避けるため』、各混成監査班に有力諸家から『調整役』を一名ずつ派遣するよう提案していた。まずは当然ながら、『複雑な地域事情に精通した』自家の訓練済みの人材から、と。
最後まで読み、彼は手紙を丁寧に卓上へ戻した。
「委員会が動き出す前に、もう案を盗んだか。見事だな」
「盗んだのではありません」
マルヴェインが言った。
「証人と道案内と足枷、それに将来の告発者を一人で兼ねる者を、席につかせてほしいと頼んでいるのです」
「断れ」
午前中の大半を壁際で過ごし、軍事上の短い意見しか挟まなかったアズガルが頷いた。
「きっぱり断るべきだ。有力諸家を委員会に入れれば、監査は形だけになる。あるいは、それ以上に悪い。弱い者を叩く道具に使われる」
シアナもすぐに同意した。
「私もそう思います。特にカルネス家は危険です。街道にも倉庫にも地方役所にも息のかかった者がいます。監査対象の代官へ事前に知らせ、書類を差し替え、橋の破損や馬の病気、街道の危険を口実に監査班を遅らせるでしょう」
「許可がなくても、それはやるだろう」
マルヴェインが指摘した。
シアナは鋭く彼を見る。
「だからといって、印章を与える理由にはなりません」
「ええ」
マルヴェインは落ち着いて答えた。
「断れば解決するふりをしないほうがいい、という話です」
リラは手紙を見つめていた。
「理由も示さずに拒めば、彼らはほかの諸家へ、玉座は地域事情を顧みず監査を強行するつもりだ、と触れ回るでしょう」
「それがどうした?」
アズガルが聞く。
「今は沈黙している家々に、結束するための体裁のよい旗印を与えることになります。君主への反対ではなく、『危険な性急さ』への反対として」
マルヴェインが頷いた。
「そのとおり。今、誰も公然と反旗を翻したくはない。ですが、秩序を案じる高潔な懸念となれば、実に上等な布です。短剣も手紙も借財も、三代にわたる嘘さえも包み隠せる」
彼はマルヴェインを見た。
「受け入れろと?」
「断るにしても、彼らに都合のいい断り方を与えるな、と申し上げています。カルネス家も、すべて通るとは思っていません。まだ形の定まらない新制度に、どこまで食い込めるか探っているのでしょう」
シアナは金属板を握りしめた。
「受け入れれば、玉座が監査への有力諸家の参加を必要と認めた、と宣伝します」
「するでしょうね。こちらが、その形で与えれば」
アズガルが言った。
「なら、連中の倉庫へ兵を送ったほうが早い」
マルヴェインは、いっそ優しげな目で彼を見た。
「軍人の明快さが懐かしかったところです」
「軍は少なくとも、短剣を布だと言い張ったりはしない」
「たまにはしますよ。ただ、もっと露骨なだけです」
「そこまでだ」
二人は黙った。
彼はもう一度、手紙を手に取った。
カルネス家は厄介だった。
ほかより強いからではない。時機を外さずに来たからだ。脅しもせず、苦情も言わず、ただ助力を申し出た。
毒の仕込まれた助力を。
断れば、新たな君主の性急な手から古き秩序を守る者として振る舞える。
受け入れれば、彼ら自身の特権を打ち壊すための仕組みに入り込まれる。
どちらに転んでも、こちらの負けだ。
ならば、負けるのは彼らにすればいい。
完全な敗北でなくていい。
今は、まだ早い。
彼は指で手紙の縁をなぞった。
「リラ。先方が求めているものを正確に言え」
「各監査班に、有力諸家の代表を一名。監査に立ち会い、現地事情を証言し、最終報告書へ証人として署名する権利です」
「署名権もか?」
「はい」
「それだけは絶対に認めない」
リラが頷く。
「同意します」
シアナは、ほっとしたように息を吐いた。
マルヴェインは黙っている。
彼はそちらを見た。
「異論があるのか?」
「続きをお待ちしているだけです。あなたは一部だけを拒んで終わる方ではありませんから」
「学んでるな」
「お役に立てるよう努めております」
彼は手紙を置いた。
「返答はこうだ。玉座は、秩序を案じるカルネス家の配慮に謝意を示し、修正を加えたうえで提案を受け入れる」
シアナの身体がこわばった。
アズガルは眉をひそめる。
リラはもう書き始めていた。
「有力諸家の代表は各班ではなく、宮殿に設ける中央監察室への参加を認める。一名、暫定で。報告書への署名権はなし。影国庫の照合が済むまで、原簿の閲覧も認めない。書面で異議を提出する権利は与え、その文書は案件の記録に添付する」
マルヴェインがゆっくりと笑みを浮かべた。
「あとで誰にでも読まれる記録に、ですか」
「そうだ」
リラの筆は素早く走っている。
彼は続けた。
「カルネス家には候補者の推薦を認める。任命ではない。推薦だ。承認するのは玉座だ」
「先方が、とびきりの毒蜘蛛を送り込んできたら?」
マルヴェインが聞く。
「好都合だ。卓上の瓶に入れて飼えばいい」
リラが顔を上げた。
その目には、かすかな賛意が宿っていた。
シアナには、まだ緊張が残っている。
「君主様、一人だけでも、多くの情報が流れるおそれがあります」
「だから、全員に情報を流す」
彼女はすぐには理解できなかった。
彼は説明した。
「カルネス家への返答と同時に、監査の透明性を確保するため中央監察室を設けると布告する。そこへ人員の派遣を願い出る権利は、有力諸家だけではなく、商人組合、小貴族、監査対象となる都市にも与える。干渉する権利を持つ代表ではない。書面で意見を提出できる監視役だ」
マルヴェインが小さく笑った。
「お見事です」
アズガルは訝しげに彼を見た。
「なぜだ?」
代わりにマルヴェインが答えた。
「カルネス家は、玉座と地方の間に立つ唯一の通訳になりたかった。君主様はそれを、全員が全員を密告し合う部屋へ座らせようとしている。しかも、すべて書面に残り、印章まで押される部屋にね」
リラも続ける。
「カルネス家が断れば、自ら提案した透明性を彼ら自身が望んでいないことになります」
「受け入れれば、話を聞くのは味方だけではなくなる」
シアナはゆっくりと頷いた。
「ですが、現地での一次監査に彼らは加えない」
「ああ。監査班は決めた構成のままだ。影国庫、影内務官房、影軍の監視役、署名権を持たない現地代表。中央監察室に渡すのは、照合済みの写しと最終的な異議申立書だけだ」
アズガルは考え込んだ。
「拒絶するより時間がかかる」
「そうだ」
「拒絶するより手ぬるい」
「そうだ」
「だが、相手は反撃しにくい」
「そういうことだ」
アズガルは頷いた。
「受け入れられる」
シアナはまだ手紙を見つめていた。
「監査班へ圧力をかけた場合の罰則も明記すべきです」
「入れてくれ」
「諸家だけでなく、商人組合や都市にも同じ条件を。でなければ、カルネス家は自分たちだけを狙ったものだと言うでしょう」
「いいだろう」
マルヴェインが指を一本立てた。
「それと、ささやかな礼儀を一つ。返書には『カルネス家の賢明なる慎重さ』と、『自家の懸念を広く共通の秩序へと昇華しようとする姿勢』を、特に称えるべきでしょう」
彼はマルヴェインを見た。
「訳すと?」
「彼らが私物化しようとした仕組みを、彼ら自身が提案した公共の檻へ変えるのです」
リラが言った。
「意地の悪い文言ですが、有効です」
「そうしろ」
マルヴェインは一礼した。
「喜んで」
「それが不安なんだ」
「そのご懸念は、政治的成長の証にございます」
「マルヴェイン」
「黙ります」
もちろん、目は黙っていなかった。
昼には、財政戦線の形がいくらか見えてきた。
簡単になったわけではない。
諸家は腹を立て、下の者たちは用心深く活気づいていた。国庫はまだ金を得ていないが、機会と、名のある敵を手に入れた。カルネス家は真っ先に新制度へ入り込もうとし、代わりに、あらゆる一歩が痕跡を残す形で入室を許された。シアナは疲れきっていたが、どこか幸福そうだった。混沌がようやく秩序を認め始めると、彼女の頭脳は喜ぶらしい。
解散する前、彼女は一人その場に残った。
「君主様」
彼は顔を上げた。
「なんだ?」
シアナはリラを見て、次にマルヴェインを見て、もう一度彼へ視線を戻した。
そして、非の打ち所のない事務的な口調を選んだ。
「昼食後、もう一度診察を行うのが望ましいかと。午前中のご負担と、いまだ続く回路の順応を考慮すれば」
リラの表情は動かなかった。
マルヴェインは、あまりにも見事に表情を変えなかった。
彼はゆっくり頷いた。
「望ましい?」
「はい」
「急ぐのか?」
「それなりに」
その一言は、彼女にしてはかなり大胆だった。
彼は笑った。
「昼食後に寄る」
シアナは一礼し、書類をまとめて退出した。
マルヴェインは、その背を目で追った。
「なんとも行き届いたお気遣いで」
「マルヴェイン」
「何も言っておりません」
「そのまま続けろ」
「仰せのままに」
リラは落ち着いて議事録を閉じた。
「メラト家、混成監査班、中央監察室についての書類を準備します」
「頼む」
彼女は顔を上げた。
その目には、理解があった。
許しではない。
彼に許しは必要なかった。




