↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の君主  作者: Svolik
3/69

第3章

影は扉のようには開かなかった。


落とし穴のように口を開けた。


一歩踏み出した瞬間、身体がどこにあるのか分からなくなった。


世界と世界のあいだに道はない。飛行も、落下も、星の回廊もなかった。中庭、濡れたアスファルト、黄色い窓――それらすべてが背後で薄い膜のように潰れた次の瞬間、乾いた冷気が顔を打った。


足元には黒い石。


彼は危うく倒れかけ、リラに腕を支えられた。


「ゆっくり呼吸して」


「こっちは空気の吸い方まで手順書があるのか?」


「誰かが死ぬまでは、だいたい何にでもあります」


「安心したよ」


彼は顔を上げた。


広大で、それでいて低い広間だった。


山の中にいるときと似ている。空間は広いのに、天井が岩の重量そのもので圧迫してくる。壁は闇の奥へ消え、赤い筋がその表面を走っていた。岩の内部を溶けた鉄がゆっくり流れているように見える。床沿いには青みがかった炎を宿す鉢が並んでいた。光はあるが、ほとんど熱を感じない。


広間の奥に魔族たちがいた。


大勢。


鎧姿もいる。長衣をまとった者もいる。目、角、肌、肩の後ろに揺れる影を見なければ、人間に見えなくもない者もいる。


最初から、馴染みのある何かに似せる努力を捨てた者もいた。


彼が現れると、広間全体が片膝をついた。


一斉ではない。


波のように。


まず近くの者たち。次に遠く。最後に、明らかにそうしたくはないが、立ったままでいることも許されない者たち。


何百もの頭が彼の前で下がった。


切り裂かれた上着を着て、顔に乾いた血をつけ、腹には他人の魔法が残り、買い物袋を過去の人生のどこかに置き去りにした人間の前で。


彼はリラを見た。


「これは必要なのか?」


「彼らには」


「俺には?」


「禁止することはできます。あとで。誰に何を禁じたのか、その者たちがなぜ命令の抜け道を探すのか理解してから」


「お前、いつもそんな慰め方をするのか?」


「私は今からあなたの秘書兼助言役です。慰める役は、きれいに死にたがる物好きが現れたら別の者に任せます」


彼は顔を向けた。


「秘書?」


リラが軽く身を屈めた。


青い炎の光の中では、銀白色の髪が冷たい金属のように見えた。黒い服に走る鮮烈な黄色は、血と濡れたアスファルトの中にいたときの奇妙な服装ではなくなっている。


石の広間、頭を垂れた魔族たちの中では、それ自体が役職を示す服に見えた。


切れ込み。身体に沿う仕立て。隠しポケット。小瓶と刃物の細い輪郭。普通の事務仕事をするには露出が多すぎ、飾りと呼ぶには設計されすぎている。


「リラ・タル。影内務官房。儀礼、諸家との書簡、君主法、公文書庫へのアクセス、面会日程、馬鹿の選別、文書の事前確認、それから必要に応じて毒物」


「毒?」


「主に」


アズガルが隣へ進み出た。


「アズガル・ラハト。影軍総司令官です」


「それはもう分かった。お前、『行かなければならない』と言ったら本当に行くタイプだろ」


「はい」


「便利な性格だ」


アズガルは褒め言葉として受け取ったらしい。顔はまったく変わらなかったが。


さらに二人が近づいてきた。


最初の男は、この広間の視線が次にどこへ向くか、あらかじめ全部知っているように歩いた。背が高く、しなやかで、鎧はない。煙った灰色の肌。細く、ほとんど優美な角。顔は美しく柔らかく、壁で青い炎が揺れる場所にはあまりに人当たりがよすぎる。


服装は鮮やかで、挑発的ですらあった。深いエメラルド色、赤みを帯びた金、豪華な刺繍の輝き。指輪、細い鎖。だがその上には、ほとんど黒に見える簡素な外套がかかっていた。なぜか一目で分かる。これを閉じれば、派手さのすべてが最初から存在しなかったかのように消える。


男は、その笑みを嘘だと断言できない程度にだけ笑っていた。


もう一人は少し後ろにいた。小柄な女。大きな暗い瞳。細い指。胸へ抱きしめた書類綴りは、政治と軍隊と新しい君主から身を守る盾にでもするつもりかというほど強く抱えている。角は短く後ろへ曲がり、髪は雑にまとめてあった。頬には、おそらくインクの染み。


控えめな灰紫色の服は身体に沿っているが、宮廷的な挑発はない。柔らかな布、ポケット、器具を留める細いベルト、書き込みの見える細長い板。彼と目を合わせるのを避けていたが、たまに見る目は鋭く速く、観察する者の目だった。


狡猾そうな男が先に礼をした。


「お会いする前にあなたを裏切る暇がなかった者たちを代表して、歓迎を申し上げます」


彼は瞬きをした。


「攻めた挨拶だな」


「正直なだけです。この広間にはすでに、あなたに仕えたい者、あなたを利用したい者、あなたより長生きしたい者がいる。時間を節約しようと思いまして」


「お前はどれだ?」


笑みが少し深くなった。


「今日のところは、あなたに最初の一日くらい生き延びてほしい者です」


「家族みたいに温かいな」


気弱そうな女魔族が咳払いした。


「厳密には、最初の一日が最も危険なのは政治的な意味に限ります。生物学的な危険期は器の選択と一次融合の後に始まります。ただし儀式を延期した場合、《刻印》の圧力による人間組織の裂傷リスクが上昇しますが、それは覚醒深度に依存し、現時点では――」


彼女は突然口を閉じた。


赤くなった。


そして書類綴りをさらに強く抱いた。


「すみません」


彼は女を注意深く見た。


「いや、続けろ。今まで聞いた中で一番役に立つ」


女は戸惑ったように目を上げた。


リラが静かに言った。


「〈影〉との適合、《刻印》、器についての主任専門家よ」


「名前はあとでいい」


彼は言った。


「今は『器の選択』が何なのか教えろ」


広間が静かになった。


気に入らない。


武装した魔族の群れが、医療用語ひとつで黙るなら、警戒したほうがいい。


アズガルがリラを見る。リラは狡猾そうな男を見る。男は、皆で正直さを味わいましょうとでも言うように微笑んだ。


「言わないわけにはいかないでしょう」


彼は言った。


「一覧を見る前のほうがいい」


「何の一覧だ?」


気弱そうな女魔族は書類を開き、それからまた閉じた。


「あなたの身体は人間です」


「知ってる。長く使ってきた」


「真なる影の君主の《刻印》を完全に展開する前提では作られていません。現在はリラが損傷を安定させていますが、これは一時的な処置です。《刻印》が成長を始めれば、器――つまりあなたの身体が――耐えられない可能性があります」


「普通の言葉で言え」


女は唾を飲み込んだ。


「内側から裂けます」


「そう。それなら分かる」


リラが顔をしかめた。


「良くないわ」


「理解するには良くなった」


彼はゆっくり息を吐いた。


腹はまだ痛い。手首も疼く。そこへ今度は、自分が頼んでもいない《刻印》に身体が耐えられないかもしれないという知識まで加わった。


「続けろ」


気弱そうな女魔族が書類を開いた。


「玉座を受け入れるには魔族の肉体が必要です。あなた自身が生まれつき持っている必要はありません。融合処置が可能です。あなたの人格、記憶、意志、《刻印》を、準備された魔族の身体へ結合する。融合後、その身体はあなたのものとなり、《刻印》は成長に必要な魔力回路を得ます」


彼は考え、眉を上げた。


それから訊いた。


「今、その身体に入ってる奴は?」


女の顔からさらに血の気が引いた。


狡猾そうな男が、まさにその質問を待っていたように少し首を傾けた。


代わりにリラが答えた。


「独立した意志としては消える」


「つまり死ぬ」


「ええ」


リラは言った。


それが初めて聞いた、まともな言葉だった。


硬く、短く、儀礼のない言葉。


彼は頷いた。


「ありがとう」


アズガルが言った。


「候補の多くは、すでに死刑判決を受けた犯罪者です」


「多くは?」


「志願者もいます」


狡猾そうな男が言う。


「忠誠を示したい家門から。心から志願する者もいる。家族に命じられた者もいる。一人の死が親族数百人を押し上げると理解する程度には賢い者も」


「素晴らしい」


彼は言った。


「つまり俺に、誰を食うか選べってことだ。殺人犯か、狂信者か、家族に英雄譚の包装紙を巻かれて売られた可哀想な奴か」


広間がまた静かになった。


気弱そうな女魔族が小さな声で言った。


「融合は捕食ではありません」


「きれいな専門用語があるのは分かった。でも処置のあと俺が残って、そいつが残らないなら、要点は把握した」


狡猾そうな男の笑みが、さらに薄くなった。


「人間の率直さは新鮮ですね」


「魔族の丁寧さは苛つく」


男の笑みは消えなかった。


「覚えが早い」


彼はアズガルを見た。


「みんな、これを待ってたのか? 俺が入ってきて、顔を洗って、一覧から身体を選んで、『ありがとう』と言うのを?」


「いいえ」


アズガルが答えた。


「あなたがどのような方か、我々は知りませんでした」


「今は?」


アズガルは少し間を置いてから答えた。


「他人の死が関わるとき、即決なさらない方だとは分かりました」


リラがわずかに彼へ顔を向けた。


「それは問題になるわ」


「当然だろうな」


「魔族の肉体がなければ、玉座は完全には認められない」


「誰に?」


「諸家。軍の一部。古い法。何人かの同盟者。それと敵は喜んで認めないでしょうね」


「つまり今すぐ誰かを食わないと、お前らの政治が血を吐き始める」


狡猾そうな男が柔らかく指を一本上げた。


「今すぐではありません。ですが、かなり近いうちに」


「志願者を選べば、その家族が俺に対する持ち札を得る」


「はい」


「犯罪者を選べば、『新しい君主は汚れた血から統治を始めた』と言う奴が出る」


リラが短く頷いた。


「ええ」


「強い犯罪者を選べば、性質の何かが俺に残る可能性は?」


気弱そうな女魔族が勢いよく顔を上げた。


「理論上、行動傾向の残響が残る可能性はあります。ただ、あなたの《刻印》が優位なら、本来は――」


「あるのか、ないのか?」


女は少し黙った。


「通常なら、残らないはずです。でも、あなたは通常の事例ではありません」


「正直だ。いい。今後もそうしてくれ」


彼女はまた赤くなったが、さっきほどではなかった。


彼は頭を垂れた魔族の群れを見た。


「選ばなかったら?」


今度はアズガルが答えた。


「可能なかぎり、人間の肉体のままお守りします」


「どのくらい?」


「最初の本格的な暗殺未遂まで。あるいは《刻印》が覚醒するまで。早いほうです」


「ここは全員、前向きだな」


リラが乾いた声で言った。


「現実主義者のほうが長生きするわ。たまには」


彼は一瞬、目を閉じた。


情報が多すぎる。


一時間前の最大の問題は夕食だった。そのあと腹に槍。魔族。予言。そして今は、受け入れてもいない玉座にふさわしい程度まで魔族になるため、死刑囚のカタログから身体を選べと言われている。


目を開けた。


「一覧を見せてくれるか?」


気弱そうな女魔族がびくりとした。


「はい。もちろんです。適合率、身体年齢、魔力回路、血統、残留意志の危険性、政治的影響で暫定分類してあります……」


「政治的影響は独立した欄に」


彼女の動きが止まった。


「え?」


「別の欄だ。それから、判決理由か志願理由。誰が候補に出した。選べば誰が得をして誰が損をする。親族はいるか。敵は。誰が『汚れた選択だ』と言うか。誰が『自分たちの功績だ』と言い出すか」


狡猾そうな男から笑みが消えた。


リラも、さっきまでとはまるで違う目で彼を見た。


アズガルも。


気弱そうな女魔族がゆっくり頷く。


「それは……理にかなっています」


「最低限だ。それともう一つ」


彼はリラへ向いた。


「『志願者』は一人も、俺と直接話す前に候補へ残すな。本当に志願しているのか、それとも行儀よく育てられた死体なのか知りたい」


リラが頭を下げた。


「手配します」


「犯罪者も見たい。全員じゃない。上位候補。適合率の高い奴だけ。記録は全部」


アズガルが言った。


「鎖につながれていても危険な者がいます」


「俺も今や、理論上は危険人物らしい。何とかする」


狡猾そうな男がまた笑った。


だが今度の笑みには敬意があった。慎重で、少し不愉快な、それでも本物の敬意。


「まだ玉座を受け入れてもいないのに、官房の半分へ仕事を作りましたね」


「慣れろ。官僚制とは長い付き合いだ。個人的な恨みもある」


リラがほとんど見えない程度に笑った。


彼は一歩踏み出したが、また脚が崩れた。グロムが支えようとしたが、リラのほうが速かった。


「まず治療室」


彼女が言った。


「まず一覧」


「治療室が先。でなければ、うつ伏せで一覧を読むことになる」


反論しようとしたが、身体が裏切るように揺れた。


「分かった。治療室。そのあと一覧」


アズガルが手を上げた。広間の魔族たちが散り始める。だが動きは遅く、誰も彼へ背を向けようとしなかった。


狡猾そうな男がリラへ身を寄せ、彼にも聞こえる程度の声で言った。


「扱いづらい方ですね」


リラが答えた。


「生きてるのよ」


彼は二人を見た。


「あと、怒ってる。業務特性として忘れるな」


気弱そうな女魔族が、突然小さな声で言った。


「それは適合率を上げる可能性があります」


全員が彼女を見た。


耳の先まで赤くなった。


「その……〈影〉の《刻印》は、強い意志反応を通じて展開しやすいことが多いんです。怒り、拒絶、押しつけられた形への抵抗。わざと怒ることを勧めているわけではなく、単なる観察ですが」


彼は疲れた目で彼女を見た。


「素晴らしい。魔法まで『正しく俺を怒らせました』と言ってるわけか」


狡猾そうな男が低く笑った。


アズガルは笑わなかったが、目の奥で何かがわずかに揺れた。


リラは彼を広間の出口へ導いた。


背後には半死半生の〈光〉の捕虜たちと、未来を防ぐために来て、もしかするとその未来の最初の原因の一つになった若い勇士の死体が残っていた。


前には、もう身体の一覧が待っている。


なぜか転移より、そちらのほうが怖かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。