第19章
シアナの診察は夕刻近くに予定されていた。
研究翼棟にある実験室へは、これまで外周路からしか案内されていない。内部は金属、乾燥薬草、雷雨のあとの石、そして新しい魔力回路を微かに痒くさせる刺激臭に満ちていた。
シアナは床へ細い銀と黒の線で描かれた大きな陣のそばで待っていた。卓には器具、記録板、結晶、暗い液体の容器、数冊の本、そして彼の視線に気づくと別の束で慌てて隠した記録の山。
「全部、俺のため?」
「はい。でも今日全てではありません。できれば今日全ては避けるべきです。いくつかの検査は完全な睡眠を三周期取った後が望ましく、《刻印》が急変した場合は早める必要がありますが、現在の数値では……」
彼女は口を閉じた。
「短く」
「安定しています。ただ、昨日と今日のあとの回路を調べる必要があります」
リラも入ろうとしたが、彼は手で止めた。
「外で待て」
リラはシアナを見て、次に彼を見る。
「はい、君主様」
シアナの緊張が一段増した。
扉が閉じる。
実験室に残ったのは二人だけ。
それと、おそらく人を殺し、治し、測り、解体し、小さな地方を破産させることのできる数十の器具。
「怖いか?」
シアナが身を震わせた。
「何がです?」
「俺が。今」
「私は……はい」
正直だった。
彼は穏やかに笑った。
「いい」
彼女は赤くなり、素早く目を伏せる。
「いい、のですか?」
「正直なら時間を節約できる」
「脅威だと思う意味ではありません。もちろん客観的には脅威ですが、必ずしも私への脅威ではなく、つまり私に対してもなり得ますが……」
黙り込んだ。
「シアナ」
「はい?」
「息をしろ」
息を吸い、ゆっくり吐く。
それから陣を示した。
「こちらへお立ちください」
フョードルが中へ入ると、足元の線が光った。身体は静かに応じる。余計な痛みを与えない治療師の手へ獣が慣れるように、検査へ慣れ始めていた。
シアナは細い測定板を持って近づく。
「手を」
差し出すと、両手で手首を取った。
指は冷たく細い。皮下の《刻印》だけを見ている間は、確かな動きだった。仕事の中で彼女は変わる。ぎこちなさが消え、知性と精密さ、理解しようとする系への貪欲な集中だけが残る。
マルヴェインは自分へ警告したのか、それとも警告という形で背中を押したのか。
狡猾な獣め。
彼女のその姿は魅力的だった。
リラとは違う。
リラは女の形へ畳まれた刃だ。秘密、作法、隠れた温かさ、危険な覚悟。
シアナは炎の見えるガラスだった。羞恥、恐怖、役立ちたい欲求、知ることへの誇り、話を聞いてもらう喜び。それに、自分の身体を世界へ示す方法を自分でも知らないような肉体。
彼は見つめすぎた。
シアナは気づいた。
まず肌で。肩がわずかに強張る。次に気配で。
そこで新しい感覚を見つけた。
今までも気配は見えていた。だが今、色や構造だけでなく、味に似たものを初めて捉えた。
彼女の気配が層をなして揺れる。恐怖は薄く鋭く冷たい。羞恥は、色と呼べるなら暖かい桃色。視線を向けられる喜びは、もっと深く、ほとんど甘い。従いたい気持ちは暗く柔らかく慎重。役立ちたい欲求は明るく速い線となって彼へ走り、また戻る。
全てが合わさると、思いがけず美味だった。
比喩ですらない。
上質な葡萄酒の杯を光へかざし、色を見て、香りを吸い、舌へ触れる予感を味わいながら、まだ一口も飲んでいないような。
フョードルは驚いた。
シアナも、その驚きに気づいた。
「何か問題が?」
ほとんど囁きだった。
「いや」
「回路ですか?」
「回路なら、お前に聞くべきだろう」
「では……何が?」
彼はゆっくり手を抜き、爪で彼女の顎先に触れた。
シアナは固まった。
逃げない。
すぐには目を上げなかった。
上げた時、全てがさらに鮮明に見えた。内側で迷っている。怖い。恥ずかしい。見てほしい。書類の中へ消えたい。役に立ちたい。従いたい。そして彼の注目が、もう知性だけを見ていないことへ、どう反応すべきか分からない。
「面白い女だな、シアナ・ヴェイル」
耳の先まで赤くなった。
「科学的な意味で?」
フョードルは笑う。
「いろいろな意味で」
彼女は唾を呑んだ。
「診察を終えなければなりません」
「続けろ」
彼は手を離した。
触れていることより、離れたことのほうが身体を支えられないように、シアナは微かによろめいた。
それから仕事へ戻る。
測定板を胸、背、翼の付け根、背骨へ当てた。翼を開き、畳み、腕を上げ、身体を回し、掌へ少し力を流し、止めるよう指示する。触れる回数は増え、動きも確かになった。だが手が胸、腹、帯へ近づくたび、気配は彼女を裏切った。
今日、彼女を抱くこともできた。
従うだろう。
おそらく早すぎるほど。狼狽しすぎるほど。甘すぎるほどに。
実験室。怯えた目。崩れる説明。床へ落ちる書類。診察がどこで終わり、命令がどこから始まったのか理解しようとする姿。役立ちたい欲求が、全てを危険なほど容易くする。
今ではない。
数日後なら、あるいは。
自分から彼女のもとへ行く。寝室でも、リラやマルヴェインを通してでもなく。この実験室へ来るか、自室へ呼ぶ。恐怖、羞恥、知的な従順さの混ざった味を、ゆっくり、注意深く試す。
考えは鮮明すぎた。
シアナは魔法の端で、それを感じたらしい。
薄い記録板を落とした。
石に当たり、硬い音がした。
「すみません」
彼女より先に屈み、拾って差し出す。
受け取る指が触れた。
気配がまた揺れる。
「結果は?」
シアナは苦労して仕事へ戻った。
「安定性は良好です。昨日の感情的・魔力的な急変による残留緊張が胸部回路と翼の付け根にありますが、損傷はありません。玉座との接続が深層回路の一部を活性化した可能性があります。別途調査が必要です。性行為は……」
唐突に黙った。
彼は眉を上げた。
「続けろ」
「あなたの場合、性行為は〈影〉の放出を誘発する可能性があります。強い感情や急激な絶頂を伴う場合は特に」
ほとんど一息で言い切った。
そして完全に赤くなる。
「科学的観察か?」
「はい」
「非常に有益だ」
「指針を作成できます」
「頼む」
間を置いて付け加える。
「書面で。恥ずかしさで死のうとするな」
シアナは速すぎるほど頷いた。
「はい、君主様」
彼は陣を出た。
扉が開き、リラがすぐに入ってくる。
シアナを見て、次に彼を見る。
何かを理解した。
当然だ。
だが何も言わない。
「診察は終わりましたか?」
シアナは記録板を胸へ抱えた。
「はい。安定性は良好です。玉座接続について追加試験と、感情負荷時の〈影〉放出の制御が必要です」
リラはゆっくりフョードルへ顔を向けた。
「感情負荷時」
彼は平然と見返す。
「科学用語か?」
「もちろんです」
シアナは床へ沈んで消えたい顔をしていた。
フョードルは彼女を憐れみ、笑わないでおく程度には優しかった。
「行こう、リラ。シアナは指針を書かないといけない」
「はい、君主様」
扉の前で振り返った。
シアナはまだ記録板を抱え、赤く、困惑し、その羞恥の中であまりに生き生きと立っていた。
視線を留める。
彼女は目を伏せた。
だが微笑んだ。
ほんの少し。
彼女自身にとって、ひどく危険な微笑み。
そして彼にとって、ひどく興味深いものだった。




