第15章
リラは私的翼棟の入口で彼を待っていた。
何も尋ねなかった。
だが、十分に見て取った。顔、気配、匂い、歩き方。すでに一部の報告を受けていたのかもしれない。あるいは、報告など必要なかったのか。
「君主様」
フョードルは足を止めた。
「今はやめてくれ」
彼女は頷く。
「お部屋にお湯をご用意しています。遅い夕食も、必要でしたら。シアナからは回復用の煎じ薬が届いています。呼び方には突っ込まないでほしいそうです」
彼は、もう少しで笑うところだった。
もう少しで。
「分かった」
二人は黙ったまま私室へ向かった。
中は清潔で、暖かく、全てが正しい位置に整えられている。
石と革帯と恐怖と力のあとでは、正しすぎるほどに。
フョードルは外套を脱いだ。リラが受け取る。その一瞬、二人の指が触れた。
彼女は彼を見た。
責めるでもなく、従順でもなく、冷たくもない。
もっと複雑な目で。
彼女は知っている。あるいは察している。それでも傍に立っていた。
「残りましょうか?」
静かな問いだった。
昨日とは違う。
昨日の問いには身体の記憶があった。今日は不安もある。
彼はすぐに答えなかった。
「残れ」と言いたかった。
欲望のためですらない。全てがあまりに早く変わっていく、その事実と一人きりになりたくなかった。減税と軍への演説と拷問台の女祭司が、同じ一日に収まってしまうこと。自分がまだ理屈を述べ、命令を下し、シアナと冗談を交わし、地図を読みながら、その晩には朝の自分なら不可能だと思ったことをしているという事実。
だが、だからこそ残らせてはいけなかった。
「いや」
リラは目を伏せた。
「はい、君主様」
彼は付け加える。
「お前のせいじゃない。疲れた。考える必要がある」
「何を?」
問いは思わず口をついて出たらしい。
フョードルは彼女を見た。
「自分が何になろうとしているのか。なぜ、こんなに早いのか」
リラはすぐには答えなかった。
やがて尋ねる。
「朝、お起こししますか?」
「ああ」
「何時に?」
フョードルは疲れた手で顔を拭った。
「早く。会議の前にシアナと会いたい。その次にマルヴェインだ」
リラがわずかに眉を上げた。
「その順番で?」
「ああ。マルヴェインと話すなら、先にこの世界にも論理があると思い出したほうがいい」
彼女の顔に、ほとんど笑みに近いものが一瞬だけ浮かんだ。
「承知しました」
リラは扉へ向かった。
退出する前に、足を止める。
「君主様」
「何だ?」
「お話しになりたくなったら、私は傍にいます」
彼は長く彼女を見つめた。
「知ってる」
彼女は出ていった。
扉が閉じる。
彼は一人になった。
浴室の湯は熱かった。下層の匂いは洗い流せても、感覚までは落ちなかった。身体は強く、ほとんど穏やかだった。
それが怖かった。
寝室へ戻り、夕食には手をつけず、シアナの煎薬だけを飲んだ。苦い。ほとんど不味い。
眠る前、寝台の縁に座って自分の手を見る。
爪。暗い肌。《刻印》の線。
今日、この手で税制改革へ署名した。
同じ手で、縛られた女の頭の横にある石を砕いた。
そして彼女を押さえた。
横になる。
翼は勝手に収まり、尾は脇へ横たわった。身体は眠りを求めている。意識はまだ抵抗しようとしたが、疲労のほうが深かった。
沈む直前、最後に浮かんだのは単純で、不快な考えだった。
権力は、人がそれを受け入れる準備ができたか理解するまで待ってはくれない。
ただ、その動きに応じ始める。




