第八話 乙女ゲーム
「……ゲーム?」
レオンハルトは固まっていた。
無理もない。
私も前世を思い出した時は固まった。
「うん」
「遊びのことか?」
「そう」
「つまり」
レオンハルトは腕を組んだ。
真剣な顔だ。
「この世界は、お前の前世の遊びの世界だと?」
「そういうことになる」
沈黙。
長い沈黙。
私はベッドに座り直した。
レオンハルトは立ったままだ。
信じていない顔をしている。
まあ、当然だ。
私だって逆の立場なら信じない。
「証拠はあるか?」
「ある」
私は即答した。
レオンハルトが目を見開く。
「あるのか?」
「ある」
私はゲームのケースを見せた。
そこには綺麗なイラストが描かれている。
中央には一人の少女。
周囲には男性達。
そして。
「あ」
レオンハルトが声を漏らした。
「どうした?」
「これ」
彼が指差した。
そこには。
金髪碧眼の少年が描かれていた。
見覚えのある顔。
いや。
見覚えしかない。
「……レオンハルトだね」
「私だ」
本人も認めた。
そりゃそうだ。
私だって最初に見た時は驚いた。
「どういうことだ」
「攻略対象」
「こうりゃく?」
「ヒロインと恋をする相手」
レオンハルトの表情が消えた。
「……恋?」
「うん」
「誰と」
私はパッケージ中央の少女を指差した。
「この子」
再び沈黙。
レオンハルトは少女の絵を見つめた。
可愛い。
いかにも乙女ゲームの主人公だ。
「知らない」
「そりゃそう」
「私はこの娘を好きになるのか?」
「なる」
「本当に?」
「ルートによるけど」
「るーと?」
「色々ある」
説明が面倒になってきた。
私はベッドに倒れ込んだ。
「要するに」
「うん」
「レオンハルトは将来この子を好きになる」
「……」
「私との婚約を破棄する」
「……」
「私は追放される」
「……」
「終わり」
簡潔な説明である。
完璧だ。
しかし。
返事がない。
私は顔を上げた。
レオンハルトは動かなかった。
ただ。
パッケージを見つめている。
「レオンハルト?」
「……納得できない」
ぽつりと呟いた。
「そう?」
「そうだ」
彼はゆっくり顔を上げた。
「私はお前を追放するのか?」
「ゲームでは」
「なぜだ」
「ヒロインをいじめるから」
「お前が?」
「ゲームの私はね」
今の私はやる気がない。
いじめるのも面倒だ。
むしろ関わりたくない。
レオンハルトはしばらく考えていた。
そして。
「見せろ」
「何を?」
「そのゲームだ」
私は固まった。
あ。
そうか。
プレイするのか。
本人が。
自分が攻略対象のゲームを。
「見たい」
レオンハルトは真剣だった。
私はゲーム機を見た。
テレビを見た。
電源。
入るのだろうか。
恐る恐るボタンを押す。
ピッ。
音がした。
「……え?」
画面が光った。
本当に動いた。
私もレオンハルトも固まる。
「動いた」
「動いたね」
しばらく二人で画面を見つめた。
意味が分からない。
創造魔法って何なのだろう。
「リリアーナ」
「なに」
「これは運命だ」
「そうかな」
「そうだ」
レオンハルトは真剣な顔で頷いた。
「私は未来の自分を確認する」
その表情は。
まるで戦場へ向かう騎士のようだった。
私は思った。
絶対にそんな大袈裟な話じゃない。
でも。
この時の私はまだ知らなかった。
数時間後。
レオンハルトが未来の自分に対して、本気で怒ることになるなんて。




