第六話 前世の部屋
結論から言うと。
失敗した。
「……できない」
私は床に座り込んだ。
疲れた。
すごく疲れた。
創造魔法を使い始めて一時間。
結果は惨敗である。
「惜しかった」
レオンハルトが励ましてくる。
惜しくない。
全然惜しくない。
部屋の真ん中には、奇妙な物体が置かれていた。
ベッドの脚。
半分だけの本棚。
謎の板。
以上。
前世の部屋とは程遠い。
「難しいな」
レオンハルトがしゃがみ込む。
私は頷いた。
「大きすぎる」
どうやら今の私の魔力量では、一部しか作れないらしい。
それに。
「思い出せない」
「何をだ?」
「細かいところ」
前世の部屋は覚えている。
でも全部ではない。
本棚の位置。
引き出しの中。
壁紙の模様。
細かい部分が曖昧だった。
創造魔法は、それを許してくれない。
理解していないものは作れない。
実に面倒な仕様である。
「諦めるか」
私は立ち上がった。
十分頑張った。
今日はもう寝たい。
そう思ったのだが。
「待て」
レオンハルトが真剣な顔をしていた。
「何?」
「思い出せばいいんだな」
「たぶん」
「では思い出そう」
「どうやって」
「考える」
精神論だった。
私は思わず遠い目になる。
「無理」
「諦めるのが早い」
「頑張りたくない」
「頑張れ」
「嫌」
いつものやり取りだった。
しかしレオンハルトは珍しく引かなかった。
「リリアーナ」
「なに」
「お前はその部屋が見たいんだろう?」
私は少しだけ黙った。
見たい。
それは本当だ。
前世の部屋。
仕事から帰って。
ベッドに寝転がって。
休日はずっとだらだらしていた。
あの部屋。
もう二度と見られないと思っていた場所。
「……ちょっとだけ」
そう答えると、レオンハルトは頷いた。
「なら作ろう」
「でも」
「私も手伝う」
「どうやって?」
「話を聞く」
私は首を傾げた。
「話?」
「ああ」
レオンハルトは近くの椅子に座った。
「お前の前世の部屋について、一つずつ教えろ」
そう言われて。
私は少し考えた。
一つずつ。
ゆっくり。
確かにそれなら思い出せるかもしれない。
「……ベッドがあった」
「どんな?」
「白い」
「大きさは?」
「一人用」
「他は?」
「机」
「どんな机だ?」
質問される。
答える。
また質問される。
答える。
最初は面倒だった。
でも。
不思議と少しずつ思い出していった。
本棚。
カーテン。
時計。
床。
壁。
置いていたぬいぐるみ。
よく飲んでいたペットボトルのお茶。
窓から見える景色。
忘れていたはずのものまで。
「……そうか」
レオンハルトが呟く。
「その部屋は、お前の大事な場所だったんだな」
私は答えなかった。
答えられなかった。
だって。
そんな風に考えたことはなかったから。
ただの部屋だ。
ただ寝て。
ごろごろして。
休日を無駄にしていた部屋。
でも。
「……そうかも」
少しだけ。
そうかもしれないと思った。
「もう一回やってみろ」
レオンハルトが言った。
私は頷く。
そして。
目を閉じた。
白い壁。
ベッド。
机。
本棚。
カーテン。
窓。
あの部屋。
私が確かに生きていた場所。
魔力を流す。
今までで一番大きく。
強く。
そして。
光が溢れた。
「……!」
思わず目を開く。
そこには。
さっきまで何もなかったはずの場所に。
一つの扉が現れていた。
白い。
見覚えのある。
懐かしい扉が。
「できた……」
私は呆然と呟いた。
レオンハルトも言葉を失っている。
そして。
扉はゆっくりと。
ひとりでに開いた。




