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婚約破棄される予定でしたが、王太子殿下が乙女ゲームをプレイした結果、なぜか溺愛されています  作者: S@Y@


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第五話 前世という世界


 前世がある。


 そう話した翌日。


 予想はしていた。


 していたのだが。


「リリアーナ!」


 朝から来た。


 しかも早い。


 絶対早い。


 私はまだ朝食を食べ終わったばかりだ。


「おはよう」


「おはよう!」


 レオンハルトは椅子へ座るなり身を乗り出した。


 目が輝いている。


 嫌な予感しかしない。


「聞かせろ」


「何を」


「前世だ」


 やっぱりそれか。


 私は紅茶代わりの果汁水を一口飲んだ。


「長くなるよ」


「構わない」


「面白くないよ」


「構わない」


 聞く気満々だった。


 面倒だなぁ。


 だが昨日、自分から話した手前、何も話さないのも変だろう。


 私は少し考えた。


「前世はね」


「うん」


「普通の人だった」


「貴族ではなく?」


「うん」


「平民か」


「たぶんそんな感じ」


 正確にはもっと違う。


 だが説明が難しい。


 民主主義だとか会社員だとか言っても伝わらないだろう。


「毎日何をしていた?」


「仕事」


「仕事?」


「お金をもらうため」


 レオンハルトが首を傾げる。


 三歳だから当然かもしれない。


「大変だった?」


「うん」


「楽しかった?」


「普通」


 思い出してもそんな感じだった。


 嫌ではなかった。


 好きでもなかった。


 働いて。


 帰って。


 ご飯を食べて。


 寝る。


 そんな日々だ。


「じゃあ休日は?」


「寝てた」


「寝ていた?」


「一日中」


 レオンハルトが固まった。


 なぜだろう。


 事実なのに。


「ずっとか?」


「ずっと」


「本当に?」


「本当に」


 レオンハルトが信じられないものを見る目を向けてくる。


 失礼である。


「他にやることはなかったのか」


「本読んだり」


「うん」


「動画見たり」


「どうが?」


「動く絵」


「そんなものがあるのか!?」


 食いついた。


 やっぱりそこか。


「前世では普通だった」


「魔道具か?」


「似たようなもの」


 本当は全然違うけれど。


 説明が面倒なのでそうしておく。


 レオンハルトは興味津々だった。


 次から次へと質問してくる。


 食べ物。


 服。


 乗り物。


 建物。


 生活。


 文化。


 私は答えられる範囲で答えた。


 そして気付けば一時間近く経っていた。


「すごいな」


 レオンハルトがぽつりと言う。


「そう?」


「まるで別世界だ」


「別世界だよ」


 実際そうなのだから仕方ない。


 するとレオンハルトが何かを思いついた顔になった。


 私は嫌な予感を覚えた。


 最近よくあるやつだ。


「リリアーナ」


「なに」


「その世界を見てみたい」


「無理」


 即答した。


 だがレオンハルトは諦めない。


「本当に無理か?」


「無理」


「創造魔法でも?」


 私は少し考える。


 そして首を傾げた。


「分からない」


「分からない?」


「試したことない」


 前世の物は作れる。


 玩具も作れた。


 小物も作れた。


 なら。


 部屋はどうだろう。


 ふとそんな考えが浮かぶ。


 私が昔住んでいた部屋。


 ベッド。


 本棚。


 机。


 カーテン。


 全部知っている。


 全部覚えている。


「できるかも」


 思わず呟いた。


 レオンハルトが勢いよく立ち上がる。


「本当か!?」


「分からないって」


「やろう」


「今?」


「今だ」


 目が輝いている。


 完全にやる気だった。


 私はため息を吐いた。


 面倒だ。


 とても面倒だ。


 しかし少しだけ興味もあった。


 もし本当に作れたら。


 私は前世の部屋を、もう一度見ることができるかもしれない。


 それは少しだけ――。


 ほんの少しだけ。


 楽しみだった。

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