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婚約破棄される予定でしたが、王太子殿下が乙女ゲームをプレイした結果、なぜか溺愛されています  作者: S@Y@


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第五十九話 もう一人のセシリア


 その夜。


 セシリアは自室のベッドに腰掛け、窓の外を眺めていた。


 帰る。


 その言葉が、何度も頭の中を巡る。


「……帰れるんだ。」


 元の世界へ。


 家族のいる場所へ。


 本来なら、それは喜ぶべきことのはずだった。


 けれど。


 胸の奥には、言葉にできない寂しさが残っている。


「リリアーナ様……。」


 自然とその名が口をついた。


 初めて会った時は、ゲームの悪役令嬢だと思って警戒していた。


 でも。


 実際のリリアーナは、誰よりも優しく、自分を助けようとしてくれた。


 レオンハルトも同じだった。


 二人は責めることなく、自分を救おうとしてくれている。


「私、本当に……。」


 その時だった。


『ありがとう。』


 穏やかな少女の声が聞こえた。


「!」


 セシリアは胸を押さえる。


『もう、大丈夫。』


「あなた……。」


『怖かったよね。』


 今までで一番はっきりと聞こえる。


 優しく、透き通った声。


「……本当のセシリア?」


『うん。』


 短い返事だった。


 それだけで十分だった。


 セシリアの瞳から涙がこぼれる。


「ごめんなさい……。」


『謝らないで。』


 少女の声は、どこまでも穏やかだった。


『あなたは、私の身体を奪いたくて来たんじゃない。』


「でも……。」


『私を守ろうとしてくれた。』


 セシリアは目を見開く。


『ゲームの結末を信じて、一生懸命だった。』


「違う……。」


『ありがとう。』


 その一言で。


 セシリアは声を上げて泣いた。


 ずっと抱えていた罪悪感が、少しだけ軽くなった気がした。


『だから。』


 本当のセシリアは、静かに続ける。


『今度は、私が勇気を出すね。』


 その言葉を最後に。


 部屋は静寂に包まれた。


 セシリアは涙を拭い、ゆっくりと顔を上げる。


「……帰ろう。」


 もう迷わない。


 この身体は、本当の持ち主へ返そう。


 それが、自分にできる最後のことなのだから。

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