第五十三話 助けを求める声
翌朝。
セシリアは寝不足のまま学園へ向かっていた。
(昨日の声……。)
耳に残って離れない。
『リリアーナ様……。』
あまりにも鮮明だった。
夢だったとは思えない。
「おはようございます、セシリア。」
リリアーナが微笑みながら声を掛ける。
「お、おはようございます。」
セシリアは反射的に笑顔を作った。
その笑顔を見たリリアーナは、小さく首を傾げる。
「大丈夫?」
「え?」
「少し顔色が悪い。」
「だ、大丈夫です。」
「無理はしないでね。」
「はい。」
リリアーナはそれ以上何も聞かなかった。
その優しさが、逆にセシリアの胸を締め付ける。
(違う……。)
(ゲームのリリアーナは、こんな人じゃない。)
何度もそう言い聞かせても。
目の前にいるリリアーナは、ゲームの悪役令嬢とはまるで別人だった。
◇ ◇ ◇
昼休み。
セシリアは一人、中庭のベンチへ腰を下ろいていた。
「どうして……。」
小さく呟く。
その時だった。
『お願い……。』
「!」
また聞こえた。
昨日と同じ少女の声。
『返して……。』
頭の奥から響いてくる。
「誰なの……!」
思わず立ち上がる。
『私の身体……。』
その一言で。
セシリアの全身から血の気が引いた。
「まさか……。」
自分の身体ではない?
そんなはずはない。
だが。
あの声は確かに、自分へ向けて話しかけていた。
「違う……。」
セシリアは頭を押さえる。
「私は……。」
言葉が続かない。
自分は、この世界へ転生した。
そう思っていた。
でも。
もし。
本当は。
誰かの身体を借りているだけだとしたら――。
「そんなの……。」
信じたくなかった。
少し離れた場所から、その様子を見つめる二つの視線があった。
リリアーナとレオンハルトだ。
「様子がおかしいね。」
リリアーナが小さく呟く。
「ああ。」
レオンハルトは静かに頷いた。
「何かが起き始めている。」
二人はまだ知らない。
本当のセシリアが。
眠りの中から、必死に助けを求め始めていることを。




