第五十話 最初のすれ違い
数日後。
王立学園高等部では、実技試験が行われていた。
広い訓練場には、生徒たちが集まっている。
「それでは、二人一組で模擬戦を行います。」
教師の声が響いた。
「組み合わせは、こちらで決めます。」
生徒たちの名前が次々と呼ばれていく。
「レオンハルト殿下。」
「はい。」
「セシリア・エヴァンズ。」
一瞬、周囲がざわついた。
セシリアも目を見開く。
(このイベント……!)
ゲームでは、ここでレオンハルトと模擬戦を行い、お互いの実力を認め合う。
そして好感度が上がる。
(ちゃんとイベントが来た……!)
セシリアは安堵した。
一方。
少し離れた場所で組み合わせ表を見ていたリリアーナも、小さく眉をひそめる。
「レオン。」
「ああ。」
レオンハルトは静かに頷いた。
「これもゲームのイベントだ。」
教師が開始の合図を出す。
「始め!」
セシリアは魔法を構える。
だが、その表情はどこかぎこちない。
ゲームでは、この後。
レオンハルトが一撃で勝負を決める。
そのあと優しく声を掛ける。
それがイベントだった。
(ゲーム通りなら……。)
セシリアは記憶どおりに魔法を放つ。
しかし。
レオンハルトは受け止めるだけで、攻撃を返さなかった。
「……殿下?」
「続けろ。」
短い一言。
セシリアは戸惑う。
(違う……。)
ゲームなら、もう終わってる。
再び魔法を放つ。
それでもレオンハルトは避けるだけだった。
訓練場の外で見守るリリアーナは、小さくため息をつく。
(また検証してる。)
レオンハルトは勝つことが目的ではない。
セシリアがゲーム通りに動こうとしているのかを見極めようとしているのだ。
やがて。
教師が声を上げた。
「そこまで!」
試合終了。
勝敗は引き分けとなった。
「お疲れ様でした。」
セシリアは頭を下げる。
「……ああ。」
レオンハルトも短く返した。
ゲームとは違う結末。
その瞬間。
セシリアははっきりと理解した。
(このままじゃ、シナリオが崩れていく。)
その焦りは、日に日に大きくなっていた。
一方で。
レオンハルトもまた、一つの確信を深めていた。
(セシリアは、ゲームの流れに合わせて行動している。)
そして。
その理由を知らなければ、本当の意味で彼女を救うことはできない。
二人は同じ出来事を見ていながら。
まったく違う未来を見つめていた。




