第四十九話 問いかけ
翌日。
昼休み。
レオンハルトはセシリアへ声を掛けた。
「少し時間はあるか。」
「はい、もちろんです。」
セシリアは笑顔で頷く。
その様子は、誰が見てもいつものセシリアだった。
「中庭を歩こう。」
「分かりました。」
二人は並んで歩き始める。
少し離れた場所では、リリアーナが本を読んでいるふりをしながら二人を見守っていた。
エルドから言われた通りだ。
まずは相手を知る。
焦ってはいけない。
「高等部には慣れたか。」
「はい。」
「友人もできたようだな。」
「皆さん優しくしてくださいます。」
ごく普通の会話。
しばらく歩いたところで、レオンハルトは立ち止まった。
「一つ聞きたいことがある。」
「何でしょう?」
「最近。」
レオンハルトは真っ直ぐセシリアを見つめる。
「自分が自分ではない、と感じることはないか。」
セシリアの笑顔が、一瞬だけ固まった。
「……え?」
「夢でもいい。」
「違和感でもいい。」
「何か思い当たることはあるか。」
セシリアは俯いた。
(気付かれてる……?)
心臓が早鐘を打つ。
けれど。
ここで本当のことを言うわけにはいかない。
「ありません。」
少しだけ間を置いて答える。
「何も。」
「そうか。」
レオンハルトはそれ以上追及しなかった。
「急に変なことを聞いてしまったな。」
「いえ。」
セシリアは笑顔を作る。
「大丈夫です。」
二人は教室へ戻っていった。
◇ ◇ ◇
「どうだった?」
リリアーナが近寄る。
レオンハルトは静かに首を横へ振った。
「答えなかった。」
「やっぱり……。」
「隠している。」
リリアーナは少しだけ考え込む。
「でも。」
「悪い人には見えない。」
「ああ。」
レオンハルトも同意する。
「むしろ。」
「混乱しているように見えた。」
二人は同じ結論に辿り着いていた。
セシリアの中にいる"誰か"は。
敵意があって動いているわけではない。
ただ。
ゲームの知識を信じ、この世界を"正しい形"へ戻そうとしているだけなのかもしれない。
その時だった。
少し離れた校舎の窓から。
セシリアは二人の姿を見つめていた。
(やっぱり、おかしい。)
レオンハルトも。
リリアーナも。
ゲームとはまるで違う。
だからこそ。
(私がシナリオを元に戻さなきゃ。)
その思いは、少しずつ強くなっていく。
誰も悪意はない。
だからこそ。
三人の想いは、静かにすれ違い始めていた。




