第四十八話 大賢者エルド
一週間後。
王宮の応接室。
レオンハルトとリリアーナは、国王とともに来客を待っていた。
やがて扉が開く。
「失礼いたします。」
白い長い髭を蓄えた老人が、ゆっくりと部屋へ入ってきた。
深い紺色のローブ。
年老いているはずなのに、その瞳には鋭い光が宿っている。
「久しぶりだな、エルド。」
国王が穏やかに声をかける。
「お招きいただき、ありがとうございます。」
老人――エルドは一礼した。
「紹介しよう。」
国王はレオンハルトとリリアーナを見る。
「この方が大賢者エルドだ。」
「初めまして。」
リリアーナは丁寧に頭を下げる。
「よろしくお願いいたします。」
レオンハルトも続いた。
エルドは二人を見ると、小さく微笑む。
「あなた方のお話は陛下から伺いました。」
「では。」
レオンハルトが切り出す。
「魂が入れ替わる可能性についても。」
「ええ。」
エルドは迷うことなく頷いた。
「あり得ます。」
その一言に、部屋の空気が変わる。
「本当に……?」
リリアーナが思わず身を乗り出す。
「魂とは、本来あるべき器へ宿るもの。」
エルドは静かに語り始めた。
「ですが、ごく稀に。」
「強い力や大きな歪みによって、別の魂が入り込むことがあります。」
レオンハルトが尋ねる。
「その場合、元の魂はどうなるのですか。」
「追い出されるとは限りません。」
エルドはゆっくり首を横に振る。
「多くは、心の深い場所で眠っています。」
リリアーナは息を呑んだ。
「眠っている……。」
「ええ。」
「完全に消えてしまうわけではありません。」
その言葉に、リリアーナはほっと胸を撫で下ろした。
「なら、助けられるんですね。」
しかし。
エルドの表情は晴れない。
「簡単ではありません。」
「……。」
「眠る魂を目覚めさせるには、まず外から入り込んだ魂であると確信できなければなりません。」
「確信。」
レオンハルトが繰り返す。
「はい。」
「そして。」
エルドは真っ直ぐ二人を見た。
「その魂が、自ら身体を手放そうとしない限り、無理に引き離せば二人とも傷つく危険があります。」
重い沈黙が流れた。
力ずくでは救えない。
つまり。
相手が何者なのかを知り、その目的を知らなければならない。
レオンハルトは静かに口を開く。
「……まずは、話をする必要があるということですね。」
エルドは静かに頷いた。
「ええ。」
「その方が何を望み、なぜこの世界へ来たのか。」
「それを知ることが、すべての始まりです。」
レオンハルトとリリアーナは顔を見合わせた。
ようやく進むべき道が見えた。
次は。
"セシリア"と向き合う番だった。




