第四十五話 試す言葉
放課後。
ローゼンベルク公爵家の庭園を歩きながら、リリアーナは小さく息をついた。
「やっぱり気になる。」
隣を歩くレオンハルトが頷く。
「ああ。」
「セシリアじゃない……そんな気がする。」
「私も同じ考えだ。」
二人はゆっくり歩みを止める。
「でも、証拠がない。」
リリアーナの言葉に、レオンハルトは少し考え込んだ。
「ならば、確かめる。」
「どうやって?」
「言葉だ。」
「言葉?」
「ああ。」
レオンハルトは静かに続ける。
「この世界には存在しない言葉を口にする。」
リリアーナはすぐに意味を理解した。
「反応を見るんだね。」
「そうだ。」
リリアーナは少しだけ笑う。
「でも、急にそんな言葉を出したら不自然じゃない?」
「不自然ではない。」
レオンハルトは首を横に振る。
「お前が創造した魔道具には、お前が付けた名前がある。」
「あっ。」
リリアーナも思い出した。
王宮で使われ始めた、いくつもの魔道具。
名前も、自分が決めたものばかりだ。
「その中の一つを話題にすればいい。」
「なるほど。」
リリアーナは納得して頷いた。
◇ ◇ ◇
翌日の昼休み。
三人はいつものように中庭で昼食を囲んでいた。
「そういえば。」
リリアーナが何気なく口を開く。
「この前作った魔道具なんだけど。」
「はい。」
セシリアが微笑む。
「名前を『スマートフォン』にしたの。」
その瞬間。
セシリアの手が止まった。
「……え?」
ほんの一瞬。
驚いたような表情が浮かぶ。
だが、すぐに笑顔へ戻った。
「どうかした?」
リリアーナが首を傾げる。
「い、いえ。」
セシリアは慌てて首を振る。
「少し変わった名前だなと思って。」
「そう?」
「はい。」
笑顔は自然だった。
けれど。
レオンハルトは、その一瞬の反応を見逃さなかった。
昼食を終え、セシリアが席を外した後。
「見たか。」
レオンハルトが静かに尋ねる。
「……うん。」
リリアーナも真剣な表情で頷く。
「あの反応。」
「『スマートフォン』という言葉を知っていた。」
「偶然とは考えにくい。」
レオンハルトは静かに目を細めた。
「これで確信に近づいた。」
「セシリアの中には。」
二人は同時に、その先の言葉を飲み込む。
まだ決定的な証拠はない。
だが。
ゲームの知識だけでは説明できない"何か"が、確かに存在していた。




