第四十四話 確信
白いハンカチが風に乗って舞う。
ひらり、ひらりと宙を漂い――。
ちょうど中庭へ足を踏み入れたレオンハルトの前へ落ちた。
(そのまま拾って。)
セシリアは心の中で願う。
(これが最初の恋愛イベントなんだから。)
レオンハルトは足を止めた。
落ちているハンカチを見る。
そして、その視線はゆっくりとセシリアへ移った。
セシリアは胸の前で両手を握り、じっと待つ。
ゲームでは、このあと。
レオンハルトがハンカチを拾い、
『落としたぞ。』
そう声を掛ける。
そこから会話が始まる。
――その、はずだった。
レオンハルトはしゃがまない。
ただ静かにセシリアを見つめている。
(え……?)
セシリアは戸惑った。
(拾わないの?)
二人の間に、妙な沈黙が流れる。
やがてレオンハルトが口を開いた。
「セシリア。」
「は、はい!」
「ハンカチを落としている。」
「……え?」
「自分で拾えるな。」
「…………」
それだけ言うと、レオンハルトは何事もなかったかのように歩き去った。
「ええっ!?」
思わず素の声が漏れる。
慌ててハンカチを拾い上げるが、頭の中は混乱していた。
(なんで!?)
(ゲームと違う!)
(拾ってくれないの!?)
その様子を木陰から見ていたリリアーナは、小さく吹き出した。
「レオン……。」
「何だ。」
「あれは意地悪じゃない?」
「違う。」
レオンハルトは真面目な顔で答える。
「検証だ。」
「検証?」
「ああ。」
レオンハルトはセシリアから目を離さず続けた。
「前回だけなら偶然とも考えられた。」
「うん。」
「だが今回は違う。」
「どういうこと?」
「あの風が吹く前。」
レオンハルトは静かに言う。
「セシリアは、自分でハンカチを取り出した。」
「……!」
リリアーナも思い出す。
確かに。
風が吹いてから落としたのではない。
風が吹くことを待っていた。
「偶然じゃない……。」
「ああ。」
レオンハルトは断言した。
「セシリアは、ゲームのイベントを再現しようとしている。」
リリアーナの表情が強張る。
「でも……どうして?」
「それはまだ分からない。」
レオンハルトはゆっくり息を吐いた。
「だが一つだけ確かなことがある。」
その瞳は、セシリアを真っ直ぐ見据えていた。
「今のセシリアは、私たちの知るセシリアではない。」
その言葉に。
リリアーナも静かに頷いた。




