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婚約破棄される予定でしたが、王太子殿下が乙女ゲームをプレイした結果、なぜか溺愛されています  作者: S@Y@


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第四十二話 動き出したシナリオ


 高等部へ入学して一週間。


 昼休みまで、あと少し。


 セシリアは教室の窓から廊下を見つめ、小さく息を吐いた。


(今日は、最初のイベントの日。)


 ゲームでは。


 主人公が教材を落とし、それをレオンハルトが拾う。


 たったそれだけの出来事。


 けれど、それが二人の距離を縮める最初のきっかけだった。


(ここから物語が始まる。)


 セシリアは教材を抱え、教室を出る。


 ゲームで何度も見た廊下。


 ゲームで何度も見た時間。


 そして。


 後ろから聞こえてくる足音。


(来た……!)


 セシリアは振り返ることなく歩き続ける。


 タイミングを合わせるように、指先の力を少しだけ緩めた。


「あっ!」


 教材が床へ散らばる。


 その音に反応したのは、レオンハルトではなかった。


(この音……!)


 教室から出てきたリリアーナが、はっと目を見開く。


 この場面を知っている。


 ゲーム最初の好感度イベント。


 考えるより先に身体が動いていた。


「セシリア!」


 リリアーナは駆け寄り、床へ膝をつく。


「怪我はない?」


「だ、大丈夫です」


 教材を拾い集めながら、リリアーナは心の中で苦笑する。


(危なかった……。)


 あと少し遅ければ。


 レオンが拾っていた。


 そこへレオンハルトも歩いてきた。


「何かあったのか」


「教材を落としただけ。」


 リリアーナは最後の一冊をセシリアへ手渡す。


「はい。」


「ありがとうございます……」


「気を付けて。」


 それだけ言うと、リリアーナはレオンハルトと並んで教室へ戻っていった。


 廊下には、セシリアだけが取り残される。


(違う……。)


 ゲームでは。


 レオンハルトが拾う。


 リリアーナは現れない。


(どうして……。)


 ゲーム通りにしただけなのに。


 最初のイベントは、あっけなく終わってしまった。


 ◇ ◇ ◇


 昼休み。


 人気のない中庭。


「やっぱり、あの場面だったね。」


 リリアーナが口を開く。


「ああ。」


 レオンハルトは静かに頷く。


「ゲーム最初の好感度イベント。」


「セシリアが教材を落として、レオンが拾う。」


「その通りだ。」


 リリアーナは肩をすくめた。


「教材が落ちた瞬間、反射で身体が動いちゃった。」


「お前らしい。」


 レオンハルトは小さく笑う。


「未来を変えるために何年も動いてきたんだ。条件反射にもなる。」


「だよね。」


 二人は少しだけ笑い合った。


 だが、その笑みはすぐに消える。


「問題は、セシリアだ。」


 レオンハルトの声が低くなる。


「うん。」


「セシリアは、なぜゲーム通りに動いた。」


「偶然とは思えない。」


 リリアーナも同じ考えだった。


「セシリアはゲームを知らない。」


「ああ。」


「なのに、ゲームと同じタイミングで、同じ行動をした。」


 レオンハルトは腕を組む。


「考えられる可能性は一つ。」


 リリアーナは息をのんだ。


「セシリアの中に、ゲームのシナリオを知る者がいる。」


 その言葉に、中庭は静まり返った。


 二人はまだ知らない。


 その"何者か"が。


 ゲームの結末を信じ込み、物語を元に戻そうとしている日本人であることを。

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