第四十一話 少しだけ違う
翌朝。
王立学園高等部。
「お、おはようございます」
教室へ入ってきたセシリアは、どこかぎこちない笑顔を浮かべていた。
「おはよう、セシリア」
リリアーナがいつものように手を振る。
「……っ」
セシリアの心臓が大きく跳ねた。
(いた……。)
リリアーナ・ローゼンベルク。
乙女ゲームの悪役令嬢。
主人公を執拗にいじめ、最後には破滅する人物。
(ゲームじゃ、もっと怖い人だったはず……。)
警戒しながら近づく。
「おはようございます、リリアーナ様」
「体調、大丈夫?」
「え?」
「昨日、顔色悪かったから」
思わぬ言葉に、セシリアは目を瞬かせた。
「だ、大丈夫です」
「無理しないでね」
リリアーナはそれだけ言うと、本へ視線を戻した。
(……え?)
拍子抜けした。
(演技?)
ゲームでは、リリアーナは主人公を嫌っていたはずだ。
なのに。
心配された。
(まだイベント前だからかな。)
そう自分に言い聞かせる。
◇ ◇ ◇
「セシリア」
今度はレオンハルトが声をかけてきた。
「おはよう」
「お、おはようございます、レオンハルト殿下」
「今日は魔法学の実技がある。昨日の体調なら無理はするな」
「はい」
レオンハルトはそれだけ言って、自分の席へ向かった。
(優しい……。)
ゲームのレオンハルトより、ずっと穏やかだ。
(もしかして、好感度が高い?)
セシリアは少しだけ安堵した。
ゲームの知識がある。
ここから攻略を進めればいい。
そう考えた。
一方で。
レオンハルトは席に着き、小さくリリアーナへ話しかける。
「どう思う」
「違う」
リリアーナは本から目を離さず答えた。
「セシリアじゃない……とは言わない。でも、何か違う」
「ああ」
二人が知るセシリアなら。
もっと自然に笑う。
もっと無邪気に話す。
今のセシリアは。
まるで周囲の様子を探るように、一言一言を選んでいる。
「様子を見よう」
レオンハルトが静かに言う。
「まだ確信はない」
「うん」
リリアーナも頷いた。
教室では。
セシリアが、ちらりと二人を見る。
(やっぱり変。)
(悪役令嬢と王太子が、あんなに仲がいいなんて……。)
ゲームで知る世界と。
目の前の現実。
そのズレは、少しずつ大きくなり始めていた。




