第三十九話 相談
翌朝。
セシリアは少し眠そうな顔で登校してきた。
「おはようございます」
「おはよう」
リリアーナはすぐに違和感に気付く。
「眠れてない?」
「少しだけ……」
セシリアは困ったように笑った。
「また夢を見たんです」
リリアーナとレオンハルトは視線を交わした。
「場所、変えよう」
「そうだな」
三人は人の少ない東屋へ向かう。
授業が始まる前なら、まだ誰も来ない。
「話して」
リリアーナが促すと、セシリアはゆっくり頷いた。
「昨日は夢じゃなかったんです」
「夢じゃない?」
「はい」
セシリアは自分の胸を押さえる。
「急に頭が痛くなって……そのあと、知らない景色が見えました」
リリアーナは黙って耳を傾ける。
「高い建物がたくさんあって、鉄でできた乗り物が走っていて……」
昨日と同じだ。
「それだけじゃないんです」
セシリアの声が少し震えた。
「『スマホ』とか、『コンビニ』とか、『動画』とか……意味の分からない言葉が、たくさん浮かんできて……」
リリアーナの鼓動が大きく鳴る。
間違いない。
全部、日本の言葉だ。
「怖かったです」
セシリアは俯く。
「自分じゃない誰かの記憶を見ているみたいで……」
「……」
リリアーナはレオンハルトを見る。
レオンハルトも険しい表情だった。
「セシリア」
リリアーナは努めて優しく言う。
「少しだけ、様子を見よう」
「はい……」
「もしまた同じことがあったら、すぐ教えて」
「分かりました」
セシリアは素直に頷いた。
◇ ◇ ◇
その日の放課後。
リリアーナとレオンハルトは、王宮の庭園を歩いていた。
「どう思う?」
リリアーナが口を開く。
「前世の記憶……ではない」
レオンハルトは静かに答えた。
「セシリアは日本を知らない」
「うん」
「だから、あれはセシリア自身の記憶ではない」
二人の考えは一致していた。
問題は。
誰の記憶なのか。
「嫌な予感がする」
リリアーナは空を見上げる。
「私もだ」
レオンハルトも短く答えた。
ゲームには存在しなかった出来事。
だからこそ、予測できない。
静かな風が庭園を吹き抜ける。
二人はまだ知らない。
その"誰か"が、すぐそこまで近づいていることを。




