第三十八話 知らない記憶
数日後。
授業が終わり、三人はいつものように学園の中庭を歩いていた。
「今日は家庭教師の先生が来るので、私は先に失礼します」
セシリアがぺこりと頭を下げる。
「また明日」
「はい。また明日!」
笑顔で手を振り、校門の方へ走っていく。
その姿を見送ってから、リリアーナはぽつりと呟いた。
「普通、だよね」
「ああ」
レオンハルトも頷く。
「夢の話以外は、何も変わっていない」
「考えすぎかな」
「……そうならいい」
だが、その言葉とは裏腹に、レオンハルトの胸騒ぎは消えなかった。
◇ ◇ ◇
その夜。
エヴァンズ家。
「お父さん、お母さん。ただいま帰りました」
「おかえり、セシリア」
母エマが笑顔で迎える。
「今日はシチューよ」
「わぁ、美味しそう!」
いつもと変わらない食卓。
父トーマスと他愛もない話をしながら夕食を終え、自室へ戻る。
「少し疲れたな……」
制服を畳み、ベッドへ腰を下ろした、その時だった。
ズキッ――。
「っ……!」
頭に鋭い痛みが走る。
思わず頭を押さえ、その場にしゃがみ込む。
「な、なに……?」
痛みとともに、見たこともない景色が脳裏に浮かぶ。
高い建物。
夜でも明るい街。
手のひらほどの薄い板を見つめる人々。
聞いたこともない言葉。
『電車、間に合うかな』
『スマホ忘れた!』
『今日は推しの配信がある!』
「……え?」
意味が分からない。
知らない。
なのに、どこか懐かしい。
頭の中へ、誰かの記憶が流れ込んでくるようだった。
「いや……」
セシリアは耳を塞ぐ。
「やめて……!」
しばらくして痛みは消えた。
部屋には静寂だけが残る。
「夢……?」
違う。
夢ではない。
あまりにも鮮明だった。
胸の鼓動が速い。
「明日……リリアーナ様に相談してみよう」
そう呟き、布団へ入る。
だが、その夜。
セシリアは何度も寝返りを打ち続けた。
まるで。
自分ではない誰かが、心の奥で目を覚まそうとしているかのように。




