第三十六話 高等部入学
三年の月日が流れた。
私たちは十五歳になった。
そして今日。
王立学園高等部の入学式を迎える。
ゲームの物語が、本来ならここから始まる。
◇ ◇ ◇
「制服、久しぶりに新しくなったね」
鏡の前でリリアーナは制服の襟を整える。
初等部とは違い、高等部の制服は落ち着いた色合いで、大人びた印象だった。
「よく似合っている」
レオンハルトが微笑む。
三年前よりも身長が伸び、幼さはほとんど残っていない。
王太子としての風格も、少しずつ身についていた。
「レオンも」
「ありがとう」
そこへ扉が叩かれる。
「リリアーナ様、レオンハルト殿下」
聞き慣れた声だった。
「セシリア」
部屋へ入ってきたセシリアも、高等部の制服に身を包んでいる。
柔らかな金色の髪を揺らし、以前よりもずっと大人びて見えた。
「お待たせしました」
「制服、似合ってる」
リリアーナが素直に言う。
セシリアは少し照れながら笑った。
「ありがとうございます」
三人は顔を見合わせる。
十二歳で入学してから三年。
ずっと同じ時間を過ごしてきた。
だから今さら緊張することもない。
「行こう」
レオンハルトの一言で、三人は校舎へ向かった。
◇ ◇ ◇
高等部の校舎は、初等部よりもさらに広く荘厳だった。
新入生たちが次々と登校してくる。
「いよいよだね」
リリアーナがぽつりと呟く。
「ああ」
レオンハルトだけは、その言葉の意味を理解していた。
ゲームの始まり。
本来なら、ここからリリアーナは悪役令嬢として破滅へ向かう。
そしてセシリアは、攻略対象たちと出会っていく。
――だが。
その未来は、もう存在しない。
二人はそう信じていた。
「教室はこちらです!」
教師に案内され、三人は教室へ入る。
窓際の席。
中央の席。
少し離れてはいるが、三人とも同じクラスだった。
「また一緒ですね」
セシリアが嬉しそうに笑う。
「うん」
リリアーナも笑みを返す。
その時だった。
教室の外から鐘の音が響く。
キーン――。
ほんの一瞬。
セシリアの身体が、小さく揺れた。
「……え?」
セシリアは額に手を当てる。
「セシリア?」
リリアーナが声をかける。
「大丈夫?」
「はい……少し立ちくらみがしただけです」
笑顔で答える。
けれど、その顔はどこか青ざめていた。
レオンハルトは眉をひそめる。
ゲームには、こんな場面はなかった。
だが今は入学式。
緊張で体調を崩したのだろう。
そう考えることもできた。
「無理はするな」
「はい」
セシリアはもう一度笑った。
誰も知らない。
この小さな違和感こそが。
すべての始まりだったことを。




