第三十四話 十歳の約束
十歳の誕生日を迎えた頃。
私たちは、以前より忙しい毎日を送るようになっていた。
レオンは王太子としての教育。
私は公爵令嬢としての教養と魔法の勉強。
セシリアも、王立学園への入学に備え、家庭教師から勉強を教わっていた。
それでも。
月に何度かは三人で顔を合わせる時間を作っている。
「今日は何をする?」
王宮の庭園で、私が尋ねる。
「この前の続きです!」
セシリアは嬉しそうに本を取り出した。
「植物図鑑?」
「はい!」
「全部覚えたの?」
「まだ半分くらいです」
隣で聞いていたレオンが感心したように頷く。
「努力家だな」
「そんなことありません」
セシリアは照れくさそうに笑う。
「知らないことを知るのが楽しいだけなんです」
私は少しだけ前世を思い出した。
子どもの頃。
図鑑を読んで、知らないことを知るのが楽しかった。
その気持ちは、この世界でも変わらない。
「ねぇ」
私が本を閉じる。
「せっかくだし、図鑑に載ってない植物を探しに行こう」
「載ってない植物?」
「庭、広いし」
レオンは少し考えたあと、小さく笑った。
「面白そうだ」
三人は庭園の奥へ歩いていく。
花壇を抜け。
小さな林を抜け。
やがて、誰も来ない場所へたどり着いた。
「あっ」
セシリアが声を上げる。
「見たことのない花です!」
薄い青色の、小さな花。
風に揺れる姿がとても綺麗だった。
「図鑑にある?」
「ありません」
セシリアは何度もページをめくる。
「本当に載ってないです」
「じゃあ、新発見?」
私が笑うと、セシリアも嬉しそうに笑った。
「かもしれません!」
レオンは花をしばらく眺めていたが、小さく口を開く。
「王宮の庭師なら知っているかもしれない」
「聞きに行こう!」
三人は花を傷つけないよう場所だけを覚え、庭師のもとへ向かった。
◇ ◇ ◇
「これは『ルミナ草』ですね」
庭師は優しく笑った。
「日当たりと土の条件が揃わないと咲かない、珍しい花ですよ」
「知らなかった……」
セシリアは少し悔しそうだった。
「でも」
庭師は続ける。
「図鑑に載っていない花を見つけられるほど、よく観察していたということです」
その言葉に、セシリアの表情が明るくなる。
「ありがとうございます!」
帰り道。
リリアーナは小さく笑った。
「セシリアらしいね」
「え?」
「分からないことがあると、すぐ知りたくなる」
「リリアーナ様も同じですよ?」
「私は前世の知識があるから」
「それでも、新しいことを知ると嬉しそうです」
思わず黙る。
否定できなかった。
レオンはそんな二人を見て、小さく笑う。
「二人とも似ている」
「そうかな?」
「ああ」
その日もまた。
三人は他愛もない話をしながら、それぞれの家へ帰っていった。
穏やかな日々は、変わらず続いていた。




