第三十三話 それぞれの成長
それから月日は流れた。
八歳。
九歳。
季節は巡り、子どもだった私たちも少しずつ成長していく。
◇ ◇ ◇
「レオン!」
王宮の訓練場。
木剣を構えるレオンハルトへ向かって、私は手を振った。
「遅かったな」
「本読んでた」
「またか」
「面白かった」
レオンは呆れたようにため息をつく。
「今日は剣の稽古だ」
「知ってる」
「逃げるなよ」
「……善処する」
「逃げる気だな」
結局、その日は一時間みっちり剣を振らされた。
「疲れた……」
「お前は体力がなさすぎる」
「頭脳派だから」
「言い訳だ」
私は木剣を抱えたまま芝生へ寝転がる。
すると。
「リリアーナ様!」
聞き慣れた声が聞こえた。
「セシリア」
セシリアは籠を抱えて駆け寄ってくる。
「休憩用のお菓子を焼いてきました!」
「ありがとう」
籠の中には、小さなクッキーが並んでいた。
以前よりも形が整い、焼き色もきれいだ。
「上手」
「本当ですか?」
「うん」
セシリアは嬉しそうにはにかんだ。
「最近、お母さんにたくさん教わっているんです」
三人は木陰に腰を下ろし、お茶を飲みながらクッキーを食べる。
こんな穏やかな時間が、今では当たり前になっていた。
◇ ◇ ◇
帰り道。
「レオン」
「何だ」
「もうすぐ十歳だね」
「ああ」
レオンハルトは空を見上げた。
「学園へ入る日も、遠くはない」
「そうだね」
ゲームの舞台。
本当の物語が始まる場所。
だけど今は違う。
ゲームでは、私はセシリアと敵同士だった。
今は友達。
ゲームでは、レオンは私を避けていた。
今は隣を歩いている。
知っている未来と、今の現実は少しずつ形を変えていた。
「未来、変えられるかな」
私がぽつりと呟く。
レオンハルトは迷うことなく答えた。
「変える」
「言い切るんだ」
「ああ」
その横顔には、一切の迷いがなかった。
「お前となら、変えられる」
私は思わず笑う。
「それ、レオンらしい」
「そうか?」
「うん」
きっと未来は、まだ分からない。
ゲームと同じ出来事が起こるかもしれない。
まったく違う未来が待っているかもしれない。
だからこそ。
一日一日を大切に積み重ねていこう。
そうすればきっと。
どんな未来が待っていたとしても、後悔だけはしないと思えた。




