第三十話 小さな村の誕生日
数日後。
今日はセシリアのお母さんの誕生日だった。
「本当に来てくださるんですか?」
セシリアは何度も確認する。
「うん」
リリアーナは頷いた。
「プレゼントを渡すところ、見たい」
「私も同行する」
レオンハルトが当然のように言う。
「で、ですが……私の家は村の小さな家ですよ?」
「知ってる」
リリアーナは首を傾げた。
「だから?」
「え?」
「行っちゃ駄目なの?」
「い、いえ! そんなことはありません!」
セシリアは慌てて首を振った。
ただ。
公爵令嬢と王太子殿下が、自分の家へ来るなど想像もしていなかっただけだ。
◇ ◇ ◇
王都から少し離れた小さな村。
石畳ではなく土の道。
豪華な屋敷もない。
のどかな景色が広がっている。
「ここです」
セシリアが立ち止まる。
そこには、小さいながらも手入れの行き届いた家があった。
「ただいま!」
「おかえり、セシリア」
扉を開けると、優しそうな女性が笑顔で迎えてくれた。
「まあ……!」
その笑顔が固まる。
セシリアの後ろに立つ二人を見つけたからだ。
「お、お客様?」
「突然お邪魔してごめんなさい」
リリアーナがぺこりと頭を下げる。
「今日は、お誕生日のお祝いに来ました」
母親は目を丸くした。
「セシリアのお友達……ですか?」
「はい!」
セシリアは嬉しそうに頷いた。
「大切なお友達です!」
その言葉に、リリアーナも自然と笑みを浮かべた。
◇ ◇ ◇
「お母さん」
食事のあと。
セシリアは大事そうに木箱を抱えて立ち上がった。
「お誕生日、おめでとう」
両手で差し出す。
「これは……?」
「開けてみて」
母親はゆっくりと蓋を開けた。
中には、花の彫刻が施された木箱。
優しい木の香りが広がる。
「まあ……」
目を見開く。
「きれい……」
「私が考えて」
セシリアは少し照れながら続ける。
「リリアーナ様とレオンハルト殿下に手伝っていただいたの」
母親は驚いたように二人を見た。
「そうだったのですね」
「少しだけ」
リリアーナは答える。
「一番頑張ったのはセシリアだから」
母親は木箱を胸に抱いた。
「ありがとう」
その一言だけで。
セシリアの目に涙が浮かぶ。
「喜んでもらえてよかった……」
「ええ。一生大切にするわ」
その言葉に、部屋の空気が柔らかくなった。
◇ ◇ ◇
帰る時間になった。
家の前まで見送りに出たセシリアは、深く頭を下げる。
「今日は本当にありがとうございました!」
「ううん」
リリアーナは小さく笑う。
「お母さん、嬉しそうだった」
「はい!」
セシリアは何度も頷いた。
「私、一生忘れません」
「大げさ」
「大げさじゃありません!」
思わず声を大きくしてしまい、セシリアは恥ずかしそうに頬を赤くした。
「……リリアーナ様とお友達になれて、本当によかったです」
リリアーナは少し照れたように視線を逸らす。
「私も」
短い言葉だった。
でも、その一言で十分だった。
レオンハルトはそんな二人を静かに見つめる。
本来なら。
決して結ばれることのなかった友情。
それが今、目の前にある。
(未来は変わっている)
そう信じながら、二人を乗せた馬車は夕暮れの王都へ向かって走り出した。




