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婚約破棄される予定でしたが、王太子殿下が乙女ゲームをプレイした結果、なぜか溺愛されています  作者: S@Y@


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第三話 不思議な魔法


 王太子との顔合わせから二か月。


 私の日常は少しだけ変わっていた。


「リリアーナ」


 窓の外から聞こえた声に、私は本から顔を上げた。


 来た。


 また来た。


 金色の髪を揺らしながら庭を歩いてくるのはレオンハルトだ。


 最近やたらと公爵家に来る。


 最初は偶然だと思った。


 二回目も偶然だと思った。


 三回目で偶然ではないと悟った。


「お嬢様、お客様ですよ」


「見れば分かる」


 マリーが苦笑する。


 私は本を閉じた。


 逃げようかと思ったが、今から庭へ向かうのも面倒だ。


 諦めて待つことにする。


 ほどなくして扉が開いた。


「リリアーナ!」


「こんにちは」


「こんにちは」


 レオンハルトは満足そうに頷いた。


 挨拶しただけなのに。


 何がそんなに嬉しいのか分からない。


「今日は何をしていた?」


「本読んでた」


「そればかりだな」


「好きだから」


 前世でも本や漫画や動画で一日が終わる人間だった。


 今世もあまり変わらない。


 レオンハルトは私の向かいに座った。


 そして期待するような目を向けてくる。


 嫌な予感がした。


「何?」


「今日は何か作らないのか?」


 やっぱりそれか。


 レオンハルトは私の創造魔法が好きだった。


 正確には、前世の知識から生み出される不思議な物が好きなのだろう。


 前にビー玉を作ったら一時間遊んでいた。


 紙飛行機を作った時は護衛を巻き込んで飛距離勝負を始めた。


 ヨーヨーを作った時など三日後に会った時も持っていた。


「今日は作らない」


「なぜだ」


「面倒だから」


 レオンハルトが露骨に肩を落とした。


 そんな顔をされても困る。


 面倒なものは面倒なのだ。


「一つだけ」


「本当か!」


 ぱっと顔が明るくなる。


 単純である。


 私は机に手を置いた。


 魔力を流し込む。


 淡い光が集まり、少しずつ形を作っていく。


 レオンハルトが身を乗り出した。


「今回は何だ?」


「できてからのお楽しみ」


 数秒後。


 机の上に現れたのは、小さなコマだった。


「これは?」


「コマ」


「こま?」


 私は指先で回してみせる。


 コマは机の上で綺麗に回転した。


「おお!」


 レオンハルトの目が輝く。


 すぐに手を伸ばした。


「私もやる」


「どうぞ」


 案の定うまく回らない。


 倒れる。


 転がる。


 また倒れる。


「難しいな……」


「慣れればできる」


 十分後。


 レオンハルトは完全に夢中になっていた。


 私は本を開く。


 暇になったから読書再開だ。


「見ろ!」


「うん」


「長く回ったぞ!」


「すごいね」


「本当に見ていたか?」


「たぶん」


「見てないな?」


 ばれた。


 でも仕方ない。


 本の方が面白い。


 レオンハルトは少しむくれた後、ふと真面目な顔になった。


「リリアーナ」


「なに?」


「お前は変だな」


「よく言われる」


 前世でも言われた。


 今世でも言われる。


 慣れている。


「私が王太子だと知っているんだろう?」


「知ってる」


「皆もっと緊張する」


「そうなんだ」


「そうなんだ、ではない」


 私は首を傾げた。


 何が問題なのだろう。


 レオンハルトはレオンハルトだ。


 王太子なのも事実だろう。


 でもそれだけである。


「別に偉くてもレオンハルトでしょ」


 ぽろっと本音が出た。


 するとレオンハルトが固まった。


 なぜだろう。


 変なことを言った気はしない。


「……そうか」


 しばらくして小さく呟く。


 その表情は少しだけ嬉しそうだった。


 意味は分からない。


 私は再び本へ視線を戻した。


 静かな時間が流れる。


 コマを回す音だけが聞こえる。


 こういう時間は嫌いじゃない。


 むしろ好きだ。


「お嬢様」


 マリーが顔を出した。


「お昼寝のお時間ですよ」


 私は勢いよく立ち上がった。


「ほんと?」


「はい」


 やった。


 待ちに待った昼寝である。


 私はすぐに本を閉じた。


「じゃあ行くね」


「待て」


 レオンハルトが立ち上がる。


「何?」


「もう寝るのか?」


「昼だから」


「昼だから?」


「昼寝」


 当たり前である。


 しかしレオンハルトは納得していない顔だった。


「本当に毎日寝ているのか?」


「寝てる」


「楽しいか?」


「楽しい」


「そうか……」


 なぜか感心された。


 意味が分からない。


 私は首を傾げながら部屋を出る。


 後ろから視線を感じた。


「レオンハルト?」


「いや」


 王太子は少しだけ笑った。


「また来る」


「そう」


 来なくてもいいのに。


 そう思ったが口には出さなかった。


 面倒だからだ。


 その頃にはまだ気付いていなかった。


 レオンハルトが公爵家へ来る理由が、創造魔法だけではなくなり始めていることに。

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