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婚約破棄される予定でしたが、王太子殿下が乙女ゲームをプレイした結果、なぜか溺愛されています  作者: S@Y@


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第二話 木陰の令嬢


 王城は朝から騒がしかった。


 色とりどりのドレスを着た令嬢達。


 付き添いの親達。


 使用人達。


 豪華な馬車が次々と到着している。


 婚約者候補のお披露目会。


 王太子レオンハルト・ルクセインとの顔合わせの日だ。


 そして私は今――。


「帰りたい」


 馬車の中で本音を漏らしていた。


「まだ到着したばかりですよ、お嬢様」


 向かいに座るマリーが苦笑する。


「もう頑張った」


「何もしておりません」


「ここまで来た」


「馬車に乗っていただけです」


 それでも疲れたものは疲れた。


 三歳児に社交は早すぎる。


 大人達はどうして平気なのだろう。


 私は窓の外を見る。


 巨大な王城。


 美しい庭園。


 噴水。


 花壇。


 どれも綺麗だった。


 綺麗だったけれど。


「庭で寝たい」


「寝ません」


 即答された。


 ひどい。


 人権侵害である。


 私はため息を吐きながら馬車を降りた。


 案内された会場には、すでにたくさんの令嬢達が集まっていた。


 みんな綺麗なドレスを着ている。


 背筋もぴんと伸びている。


 笑顔も完璧。


 三歳とは思えない。


 貴族ってすごい。


 私には無理だ。


「リリア様、お久しぶりです!」


「ごきげんよう!」


「今日は頑張りましょうね!」


 話しかけられる。


 私は笑顔を作った。


「うん」


 以上。


 会話終了。


 だが相手は納得してくれない。


「リリア様はどのようなお花がお好きですの?」


「きれいなやつ」


「そうですわね!」


「……」


 困った。


 社交って難しい。


 私は周囲を見回した。


 誰も助けてくれそうにない。


 よし。


 逃げよう。


 私はこっそりその場を離れた。


 幸い大人達は会話に夢中だ。


 マリーも捕まっている。


 今しかない。


 私は静かに会場を抜け出した。


 数分後。


「最高」


 庭園の大きな木の下に寝転がっていた。


 風が気持ちいい。


 木漏れ日も心地いい。


 遠くで鳥が鳴いている。


 会場の喧騒も聞こえない。


 天国だった。


「やっぱりこういうのでいいんだよ」


 三歳児らしからぬ呟きが漏れる。


 婚約者候補?


 知らない。


 王太子?


 知らない。


 婚約破棄?


 まだ先の話だ。


 今は昼寝の方が重要である。


 私は両手を頭の後ろに組んだ。


 空を見上げる。


 青い。


 実にいい。


 そのままうとうとし始めた時だった。


「こんなところにいたのか」


 声がした。


 近い。


 私は視線だけ動かした。


 そこにいたのは、見覚えのある少年だった。


 金色の髪。


 青い瞳。


 整いすぎた顔立ち。


 ゲームのスチルそのまま。


 間違いない。


 王太子レオンハルトだ。


「あ」


 見つかった。


 と思ったが、身体を起こすのも面倒だった。


「こんにちは」


 とりあえず挨拶だけする。


「……こんにちは」


 レオンハルトが少し驚いた顔をした。


 無理もない。


 普通の令嬢なら慌てて立ち上がる。


 私は立ち上がらない。


 寝転がったままだ。


 面倒だから。


「何をしている?」


「空見てる」


「空?」


「きれいだから」


 レオンハルトが黙った。


 何か変なことを言っただろうか。


 でも本当に綺麗なのだから仕方ない。


「皆は会場にいるぞ」


「そうなんだ」


「戻らないのか?」


「そのうち」


 たぶん。


 できれば最後までここにいたい。


 レオンハルトはしばらく私を見下ろしていた。


 やがて不思議そうに首を傾げる。


「私が誰か分かるか?」


「王太子殿下」


「ならば普通はもっと慌てると思うのだが」


「そう?」


「そうだ」


 そう言われても困る。


 慌てたところで何か変わるわけでもない。


「別に怒らない」


「怒る怒らないの問題ではない」


「じゃあ大丈夫」


 私は結論を出した。


 レオンハルトがまた黙る。


 そして。


 なぜか笑った。


 小さく。


 本当に小さくだったけれど。


 確かに笑った。


「変なやつだな」


「よく言われる」


 前世でも言われた。


 仕事より昼寝を優先するなと。


 無茶を言う。


 昼寝は大事だ。


 人生に必要だ。


「リリアーナ・ローゼンベルク」


 突然名前を呼ばれた。


 私は視線を向ける。


「なに?」


「覚えた」


「そう」


「反応が薄い」


「眠いから」


 レオンハルトは再び笑った。


 今度は少しだけはっきりと。


 その時の私は気付いていなかった。


 この日。


 この木の下で。


 未来の王太子が、婚約者候補の中で初めて私に興味を持ったことを。


 そしてそれが、後々とんでもなく面倒なことになることも。


 もちろん今の私は知らない。


 ただ眠かった。


 本当に、それだけだった。

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