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婚約破棄される予定でしたが、王太子殿下が乙女ゲームをプレイした結果、なぜか溺愛されています  作者: S@Y@


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第一話 悪役令嬢、思い出す


 空が青い。


 雲がゆっくり流れている。


 暖かな風が頬を撫で、花の香りが鼻をくすぐった。


 気持ちいい。


 このまま昼寝したい。


 本気でそう思った瞬間だった。


 頭の中に、知らないはずの記憶が雪崩れ込んできた。


 学校。


 スマホ。


 コンビニ。


 動画サイト。


 仕事。


 休日に一日中ベッドでごろごろしていたこと。


 そして――。


「うぇっ」


 急激な情報量に、三歳の身体は耐えられなかった。


 私は芝生の上で身体を丸める。


「お嬢様!?」


 慌てた声が聞こえた。


 専属侍女のマリーだ。


 駆け寄ってきた彼女は、顔色を変えて私を抱き起こした。


「どこかお具合が!?」


「だいじょうぶ……」


 たぶん。


 いや、本当に大丈夫だろうか。


 だって今、私は思い出してしまったのだから。


 前世の記憶を。


 そして、この世界の正体を。


「……あー」


 思わず空を見上げる。


 青い。


 現実逃避したくなるくらい青い。


 ここは乙女ゲーム『聖なる花と七つの誓い』の世界だった。


 前世で暇つぶしに遊んだゲームだ。


 攻略対象は王子様や騎士団長の息子や魔導師の天才など、いわゆるイケメン集団。


 ヒロインが彼らと恋を育み、幸せになる物語。


 そして私は――。


「悪役令嬢じゃん……」


「え?」


「なんでもない」


 マリーが首を傾げる。


 いや、なんでもよくない。


 ゲームの中での私は、王太子の婚約者候補。


 高慢でわがままで意地悪。


 ヒロインをいじめ抜いた挙げ句、最後には婚約破棄される。


 おまけに社交界から追放。


 ルートによっては修道院送り。


 酷いと国外追放。


「めんどくさ……」


「お嬢様?」


「なんでもない」


 よくない。


 全然よくない。


 けれど絶望するほどでもなかった。


 だって考えてみてほしい。


 私は別に王子が好きなわけではない。


 ヒロインと戦いたいわけでもない。


 そもそも争いごとが嫌いだ。


 疲れるし。


 面倒だし。


 できれば昼寝して暮らしたい。


 つまり。


「婚約破棄されるならされるでよくない?」


 ぽつりと呟く。


 マリーは聞こえなかったらしく、不思議そうな顔をしただけだった。


 そうだ。


 別に王妃になりたいわけじゃない。


 ならゲームの通り進んでも問題ないのでは?


 ヒロインが王子と結ばれる。


 私は婚約破棄される。


 終わり。


 平和だ。


「うん」


 名案である。


 私は満足して頷いた。


 変に運命を変えようとして頑張る方が大変だ。


 努力は疲れる。


 未来の私に任せよう。


 今は昼寝が先だ。


 私は再び芝生へ寝転んだ。


「お嬢様!? ドレスが汚れます!」


「あとで着替える」


「そういう問題ではありません!」


 マリーが慌てている。


 けれど私の意識はすでに空へ向かっていた。


 今日は風が気持ちいい。


 うとうとしてきた。


 悪役令嬢だろうが何だろうが、この眠気には勝てない。


 目を閉じようとした、その時だった。


「あら、リリア」


 聞き慣れた女性の声が降ってきた。


 母だ。


 ローゼンベルク公爵夫人。


 私は仕方なく上半身を起こした。


「どうしたの?」


「どうしたの、ではありませんよ」


 母は優雅に微笑んだ。


 嫌な予感がする。


 こういう時の母は、大抵面倒な話を持ってくる。


 予感は当たった。


「来月、王城でお茶会があります」


「へえ」


「王太子殿下との顔合わせです」


「へえ……」


 ん?


 待て。


 今なんと言った。


「王太子殿下との顔合わせ?」


「ええ。婚約者候補として招待されました」


 私は固まった。


 思い出した。


 あった。


 そんなイベント。


 ゲームの序盤。


 三歳の頃に行われる顔合わせ。


 そこで王太子と初めて出会うのだ。


 未来の婚約者候補達が集められる、お披露目会。


 そして。


「めんどくさい……」


「リリア?」


「なんでもない」


 全然なんでもよくない。


 まだ三歳なのに。


 もうイベント始まるの?


 早くない?


 もう少しこう、準備期間とかないの?


 私は再び空を見上げた。


 青かった。


 現実はどこまでも残酷である。


 こうして私は、未来の婚約破棄相手となる王太子との初対面を迎えることになったのだった。

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