第二十七話 友達の部屋
セシリア・エヴァンズは緊張していた。
人生で一番緊張している。
なぜなら。
今から、リリアーナ・ローゼンベルクの部屋に遊びに行くからだ。
公爵令嬢。
王太子殿下の婚約者。
そして。
未来を知っている、不思議な女の子。
そんな人の部屋だ。
きっとすごい。
豪華で。
綺麗で。
完璧な部屋に違いない。
「ここだ」
レオンハルトが扉の前で立ち止まった。
セシリアは小さく頷く。
緊張で心臓が痛い。
コンコン。
「リリアーナ」
レオンハルトがノックした。
「……ん」
中から声がする。
「入るぞ」
「うん」
扉が開いた。
そして。
「……え?」
セシリアは固まった。
想像と違った。
あまりにも。
部屋は広い。
それは間違いない。
けれど。
床には大きなクッションが置かれていて。
見たことのないぬいぐるみが並んでいて。
本が山積みになっていて。
窓際には柔らかそうな寝椅子がある。
そして。
部屋の真ん中。
ふかふかの絨毯の上で。
「来た?」
リリアーナが寝転がっていた。
「……はい」
思わず返事をした。
リリアーナは起き上がる。
「いらっしゃい」
少し眠そうに笑った。
「えっと……お邪魔します」
「うん」
それだけだった。
公爵令嬢らしい挨拶も。
難しい言葉もない。
まるで。
普通の友達の家に来たみたいだ。
「座る?」
リリアーナが隣のクッションを叩いた。
セシリアは恐る恐る座る。
柔らかい。
「あ……」
「でしょ」
リリアーナが少し嬉しそうに言った。
「お気に入り」
セシリアは少し笑った。
その時。
部屋の隅にあるものが目に入った。
「これは……?」
小さな熊のぬいぐるみ。
片方の耳が少し曲がっている。
「あ」
リリアーナが振り返った。
「くま」
「くま……」
「好きだったから作った」
抱き上げる。
その顔は、少しだけ嬉しそうだった。
「かわいいです」
「ありがとう」
短い言葉。
でも。
本当に嬉しそうだった。
セシリアは不思議に思った。
この人は。
どうしてこんなに普通なのだろう。
王太子殿下の婚約者なのに。
未来を知っているのに。
魔法で何でも作れるのに。
「リリアーナ様」
「うん?」
「好きなことって何ですか?」
リリアーナは少し考えた。
「寝ること」
即答だった。
「あとは?」
「食べること」
「あとは?」
「友達と遊ぶこと」
セシリアは瞬きをした。
「……私も入りますか?」
「うん」
また即答。
「友達だから」
セシリアは固まった。
友達。
その言葉を。
こんなに当たり前みたいに言われたのは初めてだった。
「……はい」
自然と笑っていた。
その時。
「リリアーナ」
レオンハルトが口を開いた。
「何?」
「昼食の時間だ」
「あ」
リリアーナが時計を見た。
「ほんとだ」
そして。
セシリアの方を見る。
「一緒に食べる?」
セシリアは頷いた。
「はい!」
その返事を聞いて。
レオンハルトは、小さく息を吐いた。
問題ない。
少なくとも今は。
セシリア・エヴァンズは、敵ではない。
リリアーナにとって。
そして。
自分にとっても。
大切な友人になれる少女だった。




