第二十四話 主人公の判定
レオンハルト・アルセインは考えていた。
目の前の少女について。
セシリア・エヴァンズ。
乙女ゲーム『聖なる花と五人の騎士』の主人公。
本来ならば。
数年後、自分は彼女に恋をする。
そして。
リリアーナとの婚約を破棄する。
……理解できない。
何度考えても理解できない。
「えっと……」
セシリアが、おずおずと口を開いた。
「私、何かしましたか……?」
怯えている。
それはそうだろう。
七歳の少女が、突然王城に呼ばれたのだ。
しかも、王太子が初対面で、
『私を好きになる予定はあるか』
などと聞いてきた。
恐怖でしかない。
「いや」
レオンは首を横に振った。
「確認したかっただけだ」
「確認……?」
「ああ」
セシリアは困ったように笑った。
「その……王子様のことは、初めて会いました」
「そうか」
「だから、好きとかは……」
「分かっている」
レオンは頷いた。
それはゲームでも同じだ。
セシリアは最初から恋をしていたわけではない。
学園で出会い。
交流し。
恋に落ちる。
そのはずだった。
「……一つ聞く」
「はい」
「もし、将来私以外に好きな相手ができたら、どうする」
セシリアは目を丸くした。
「え?」
「答えろ」
「え、えっと……」
彼女は真剣に考えた。
そして。
「好きな人ができたら……その人を好きになると思います」
当然の答えだった。
レオンは少しだけ考えた。
ゲームの主人公らしい答えではない。
普通の人間の答えだ。
「私が王太子でもか?」
「え?」
「私と結婚すれば、将来は王妃だ」
セシリアは青ざめた。
「む、無理です!」
即答だった。
「なぜだ」
「怖いからです!」
「怖い?」
「だって王子様ですよ!?」
レオンは黙った。
怖い。
その発想はなかった。
「それに」
セシリアは続ける。
「好きでもない人と結婚するのは嫌です」
「……そうか」
レオンは窓の外を見た。
庭園。
いつもの木陰。
リリアーナが寝ている。
今日も平和だ。
好きでもない人と結婚するのは嫌。
その理屈でいけば。
自分がセシリアを好きになる未来は。
やはり理解できない。
「……一つ訂正する」
「はい?」
「君は敵ではない」
セシリアは固まった。
「敵……?」
「ああ」
「敵……だったんですか?」
レオンは少し考えた。
「可能性はあった」
セシリアは泣きそうな顔になった。
失敗した。
どうやら正直すぎたらしい。
「すまない」
レオンは謝った。
「今は違う」
「そ、そうですか……」
セシリアは胸を撫で下ろした。
そして恐る恐る聞いた。
「あの……リリアーナさんって……誰なんですか?」
レオンは答えた。
「私の婚約者だ」
「え?」
「将来の妻だ」
「え?」
「最も大切な人だ」
「ええ?」
セシリアは混乱した。
さっきまで自分に、
『私を好きになる予定はあるか』
と聞いていた人と同一人物とは思えない。
「会うか?」
レオンが言った。
「え?」
「リリアーナに」
セシリアは迷った。
だが。
王太子がそこまで言う相手だ。
少しだけ興味があった。
「……会ってみたいです」
「分かった」
レオンは立ち上がった。
その表情は、どこか安心しているように見えた。
これで確認できた。
セシリア・エヴァンズは、少なくとも今は。
ゲームの主人公ではなく。
ただの、少し気の弱い七歳の少女だった。




