第二十三話 主人公、発見
セシリア・エヴァンズは、ごく普通の少女だった。
王都南方の小さな村。
優しい両親。
少し貧しいけれど、笑いの絶えない家。
それが、七歳になるまでの彼女の世界だった。
その日も、いつもと同じだった。
「セシリア、おつかいお願いね」
「はーい!」
元気よく返事をして、家を飛び出す。
空は青い。
風は気持ちいい。
良い日だ。
そう思った瞬間だった。
視界が白く染まった。
「え……?」
足元から、光が溢れていた。
暖かい。
眩しい。
そして。
枯れていた花が咲いた。
雑草が芽吹いた。
村の広場全体が、柔らかな光に包まれる。
「セシリア……?」
母の声。
振り返る。
村人たちがいた。
全員が、同じ顔をしている。
信じられないものを見る顔。
「光属性……」
誰かが呟いた。
「しかも……こんな規模……」
セシリアは分からなかった。
ただ。
何か、とんでもないことをしてしまった。
それだけは分かった。
◇ ◇ ◇
「確認できました」
報告を受けたレオンハルトは、本を閉じた。
「そうか」
七歳。
セシリア・エヴァンズ。
希少光属性。
ゲーム通りだ。
「場所は」
「ベルナ村です」
「護衛は」
「既に配置済み」
レオンハルトは頷いた。
窓の外を見る。
庭園。
木陰。
リリアーナが寝ている。
今日も平和だ。
だからこそ。
確認しなければならない。
ゲームは、本当にゲーム通りなのか。
「馬車を用意しろ」
「は」
「私が会う」
◇ ◇ ◇
三日後。
セシリア・エヴァンズは王城にいた。
正確には。
混乱していた。
「え?」
王家の使者が来た。
「え?」
騎士団が来た。
「え?」
王都に連れて来られた。
何も分からない。
怖い。
帰りたい。
「お待たせした」
声がした。
セシリアは顔を上げた。
そして。
固まった。
綺麗だった。
金色の髪。
青い瞳。
絵本から出てきたみたいな男の子。
「お、王子様……?」
「レオンハルト・アルセインだ」
セシリアは慌てて立ち上がった。
「し、失礼しました!」
「構わない」
優しい声だった。
少しだけ安心する。
だが。
次の言葉で、また固まった。
「確認したいことがある」
「は、はい!」
レオンハルトは真っ直ぐにセシリアを見た。
「君は、私と婚約したいと思うか」
「……え?」
セシリアの思考が止まった。
「あるいは」
レオンハルトは続ける。
「私を好きになる予定はあるか」
「…………え?」
何を言われているのか分からない。
王子様は真剣だ。
とても真剣だ。
だからこそ。
余計に分からない。
「え、えっと……」
セシリアは必死に考えた。
初対面だ。
今、初めて会った。
好きとか。
婚約とか。
何を?
「な、ない……です」
恐る恐る答える。
すると。
レオンハルトは目を閉じた。
そして。
「そうか」
少しだけ。
本当に少しだけ。
安心したように笑った。
その瞬間。
セシリアは確信した。
(この王子様、なんか変だ……!)
そして。
レオンハルト・アルセインも確信した。
(ゲーム通りではない)
未来改変計画は。
新たな段階に入った。




