第十七話 王の悩み(国王視点)
最近。
息子の様子がおかしい。
私――アルフレッド・アルセイン国王は、机の上の書類を見つめながらため息を吐いた。
「陛下」
側近が恐る恐る声をかける。
「何だ」
「またです」
「……そうか」
またか。
私は頭を押さえた。
「今日は何時間だ」
「朝からですので、現在六時間ほどかと」
「六時間」
長い。
非常に長い。
相手は外交使節ではない。
宰相でもない。
ましてや軍務でもない。
公爵令嬢である。
三歳の。
「……何をしているのだ」
「報告によれば」
側近が紙を見た。
「積み木を」
「積み木」
「はい」
「六時間?」
「はい」
意味が分からなかった。
私の知るレオンハルトは、幼い頃から優秀だった。
文字を覚えるのも早かった。
計算もできた。
歴史も政治も理解していた。
だが。
積み木を六時間は理解できない。
「なぜだ」
「存じません」
側近も諦めた顔をしていた。
私は椅子にもたれかかった。
思い返せば、最初から妙だった。
三歳の婚約者候補のお披露目。
レオンハルトは途中で姿を消した。
また面倒を起こしたかと思った。
だが。
帰ってきた時。
息子は言った。
『婚約者候補は決まった』
早い。
とても早い。
普通は数年かけて選ぶ。
だが。
『リリアーナ・ローゼンベルク嬢にする』
断言した。
私は驚いた。
王妃はもっと驚いた。
ローゼンベルク公爵は椅子から落ちた。
そして。
それからだ。
毎日通い始めた。
「……」
私は考える。
何がそこまで気に入ったのだ。
美貌か。
いや。
確かに美しい子だったが、息子は見た目で選ぶ性格ではない。
家柄か。
それも違う。
ならば。
性格か。
「……会ってみるか」
私は呟いた。
「陛下?」
「ローゼンベルク公爵家へ行く」
側近が固まった。
「今からですか」
「ああ」
気になる。
非常に気になる。
息子が毎日通う相手だ。
どんな子なのか、この目で確かめたい。
そして。
二時間後。
私はローゼンベルク公爵家の庭園にいた。
「失礼する」
そう声をかける。
返事はなかった。
代わりに。
すぅ。
すぅ。
という寝息が聞こえた。
「……」
庭の木陰。
一人の少女が寝ていた。
銀髪。
紫の瞳。
いや。
瞳は閉じている。
完全に寝ている。
その隣で。
「父上」
私の息子がいた。
椅子に座り。
本を読みながら。
寝ている少女を見守っていた。
「……何をしている」
私は聞いた。
レオンハルトは顔を上げた。
「見守っています」
「何を」
「昼寝を」
「なぜ」
レオンハルトは少し考えた。
そして。
「幸せそうだからです」
私は黙った。
側近も黙った。
ローゼンベルク公爵は遠い目をした。
しばらくして。
私は理解した。
いや。
理解はしていない。
ただ。
一つだけ分かった。
息子は。
思っていたよりも。
ずっと重症だった。




