第十四話 眠れない(レオンハルト視点)
私は現在、人生最大の危機に直面している。
隣に。
リリアーナがいる。
寝ている。
しかも。
私の腕を抱えて。
「……」
どうしてこうなった。
いや。
経緯は分かっている。
『寝る?』
そう言われた。
私は断れなかった。
断る理由もなかった。
だからベッドに座った。
すると。
リリアーナが寝返りを打った。
そして。
私の腕を抱えた。
以上である。
「……」
私は動けなかった。
三十分。
いや。
もっとかもしれない。
時計を見る余裕もなかった。
なぜなら。
心臓がうるさい。
おかしい。
病気かもしれない。
いや。
違う。
たぶん違う。
私はそっと隣を見る。
リリアーナは寝ていた。
完全に。
気持ちよさそうに。
「……ずるい」
思わず呟いた。
私はこんなに困っているのに。
本人は何も知らない。
そして。
無防備だ。
信頼されている。
それは嬉しい。
だが。
困る。
非常に困る。
私は大きく息を吐いた。
落ち着け。
私は王太子だ。
未来の国王だ。
この程度で動揺していては務まらない。
そう考えて。
隣を見た。
リリアーナが寝ぼけて、さらに腕を抱き込んだ。
「……」
無理だった。
私は諦めた。
そして。
考えることにした。
未来のことを。
『リリアーナ・ローゼンベルク! 君との婚約は破棄する!』
ゲームの中の自分の声が蘇る。
今でも腹が立つ。
なぜだ。
どうしてだ。
どう考えてもおかしい。
リリアーナは。
面倒くさがりで。
昼寝が好きで。
危機感がなくて。
でも。
優しい。
今日だって。
私が疲れていると気付いたから、一緒に寝ようと言ったのだ。
打算も。
計算もない。
ただ。
私が眠そうだから。
それだけだ。
「……そんな人間を」
捨てる?
ありえない。
私はゆっくりと拳を握った。
未来の私は知らない。
リリアーナのことを。
だから間違えた。
ならば。
私は間違えない。
絶対に。
その時だった。
「……レオン」
小さな声が聞こえた。
私は固まった。
リリアーナだ。
目は閉じている。
寝言だった。
「……どこにも……いかないで……」
「……」
私はしばらく何も考えられなかった。
なぜ。
どうして。
分からない。
でも。
胸が熱かった。
嬉しかった。
とても。
だから。
私は眠るリリアーナの手を、そっと握った。
「行かない」
小さな声で答える。
「どこにも」
絶対に。
お前を置いていかない。
そして。
お前も。
誰にも渡さない。
その決意は。
この日。
さらに強くなったのだった。




