第7話 どんな顔をすればいいのやら
「定例の晩餐会への招待状です。毎回欠席していますので、問題は有りません」
灰すら残さず手紙は燃え尽き、ラシエラさんは淡々と言った。
「あ、あちらも分かっていて、送っているのですか……?」
「はい。王子の目の前で燃やしてみたところ、大笑いで了承してくれましたから」
ラシエラさんの度胸も相当だが、王子の器の大きさに感服する。
国に希少な魔物の毛皮や角、ダンジョンで発見された宝石等を献上しているだろうし、ラシエラさんは国の守護の一角を担っている。王子は自分の目で確認した上で、その後も王族として形だけの招待状を送っているんだろうな。
次元の違う話に、俺はついて行けるはずがない。折角招待されたなら晩餐会に参加して、貴族達に顔を売れば良いのに、と思えてしまうからだ。
でも、ラシエラさんなら遠の昔に売れているか。現役の白星のギルドマスターなんて、滅多にいないと聞いている。
「他に質問はございますか?」
きゅ、急に面接に戻った。もしかして、ラシエラさんは変な人か?
「しつ、もんですか、えーと……」
驚いて完全に頭が真っ白になった。
あると言えば、あるが……もうこの際、言ってしまうか。
「ギルドマスターはエルフですか?」
一瞬の沈黙が、あまりにも長く感じた。
足長の女性とラシエラさんの動きが、止まった様に見えた。
「えっ」
なに、えっ? えぇ?
表情を変えないラシエラさんの口角が上がったんだけど!?
本当に口角だけで、目元も眉も、頬すら何も動いていない!!
身体がざわつく! どうして怖がってんの俺は!? いや、不気味は不気味だけど、命が危険な気がする!
なに!? この人、なに!? どういう顔してるんだ!?
「先程の育休について話された時に、エルフの場合はこうって仰ってなかったですし……ここの人口を思えば足長が8割ですから当然なんですけど、俺相手ならって思いまして……」
それっぽい事を言って誤魔化そう。事実ではあるから、大丈夫か?
直感ですって言っても信じてもらえないだろうし、好奇心で口走った凄い失礼な発言だったし……
「す、すいませんでした! 失礼します!!!」
居た堪れなくなった俺は立ち上がり、勢いのままに部屋を飛び出した。
職員さんから何か言われた気がするが、一目散に逃げた俺はもう止まれない。
終わった……
絶対に不採用だ。
ま、まぁ、良い経験になったと思っておこう。
ここのギルド経由でなくても職員のライセンスの取得する方法を探すのもアリだと思えたし、色んな職種を渡り歩くのも面白そうだ。
今日は魔術道具屋に戻って手伝いをして、今後の事を考えよう。
……しばらくは、ギルドハウスには行けないな。
面接から10日が経った。
その間の俺は、魔術道具屋の手伝いをやり続けていた。荷物運びや魔術に使う薬草の仕分け、それに薬の精製もやらせてもらえて、結構に楽しんだ。
故郷でよく作っては、遊ぶ時に持って行っていたんだよな。
まぁ、高等学校へ進学させてもらえなかったから、応急処置用で切り傷や火傷を治す程度だけど、効果が出た時の喜びは一入だった。
あの時も楽しかったけど、久々にやると懐かしさと新鮮さが同居して、なんかワクワクした。
学べる場所があれば、薬屋もありだなー。
……まぁ、今は無理だけど。
俺が手伝いを続けていたのは、面接の結果を聞くだけが理由じゃない。
70度に曲げられてしまった俺の地杖を修理するために、お金が必要だからだ。
俺の杖は、複数の枝や蔓を編み合わせて作られた品だ。派手さが無く無骨な見た目だが木を彫って作った杖と違い、俺の魔力が複数の枝や蔓に通ることで強度が増し、こん棒としても扱える頑丈さが売りの逸品だ。
折れて終わりではなく、材料さえあれば修理が出来るのも利点だ。
今回は完全に折れてはいないが、複数の枝や蔓が完全に魔力を通さなくなっているので、それを取り除いて新しい枝か蔓を編み込む必要がある。材料は植物系の魔物の一部や魔力を生成する植物を使用しているが、こっちに来てからの初の修理だ。こっちの素材との相性によっては、無事だった枝や蔓と喧嘩をしかねないので吟味しなくてはいけない。
居候中の魔術道具店で買う予定でいるが、相性によっては目玉が飛び出る位の値段の材料が選ばれるかもしれない。念には念を、と金をかき集めている最中だ。
「クシュルくん。手紙が届いたよ」
「はーい!」
裏方で店に並べる予定の杖を磨いている最中に、店主であるハーフエルフの女性が声をかけてくれた。俺は商品の杖を丁寧に布で包み棚に置いて、急いで受け取りに行った。
今の俺に手紙が届くとすれば、冒険者ギルドだけだ。
表には宛名で綺麗な筆跡で俺の名前が、裏には送り主である冒険者ギルドの名前と人類が初めて発見したとされる〈白竜〉を模した押し印がされている。
「に、二階で読んできます!」
「いってらっしゃーい」
和やかに店主さんは言い、俺は急いで二階の階段を上った。
寝泊まりしている屋根裏に行っても良いが、すぐに結果が知りたかったからだ。
魔物と対峙した時の緊張感とは別物だ。期待と不安で心臓の音がうるさい。久しぶりの感覚だ。
「俺、落ち着け……落ち着けよ……」
自分に言い聞かせつつ、持っていたペーパーナイフで封を切り、三つ折りにされた便箋を取り出す。
一枚しか、ない!
やっぱり不採用か!?
いや、読むまで分からない! だから便箋を開け、俺!
「よ、よし!」
勇気を振り絞り、俺は三つ折りの便箋を開けた。
〈厳正なる審査の結果、事務員として採用が決定しました〉
さい、よう。
さいよう?
さいよう……
…………………
「よっしゃあああぁぁぁぁ!!!!!」
俺は拳を握り締め、大きな声を出して喜んだ。
しかし、あの変なギルドマスターを思い出して、じわじわと心配が込上げてきた。




