第6話 職員想いのマスターだが……
「女性の場合は産休が終わった直後から取得できます。足長族の女性の場合、最長一年半の休暇を取得できます」
「随分と短いですね」
ラシエラさんは制度の内容を説明してくれているので、まずはその流れに乗ることにした。
「その時期には離乳を終えていますので、ギルド内にある託児所で預かりが可能になります」
なるほど。離乳か。俺も近所の姉ちゃんの手伝いで、やった事がある。子供が嫌がったりで大変だけれど、出来る人に任せられる。
でもエルフの離乳って5年は必要だぞ。人工乳をあげる手もあるが、足長の職員からしたら長すぎる。
どうにも気になるが……ここを追求し過ぎると、面接ではなくなりそうだ。
「えー……たくじじょって何ですか?」
今は訊けそうなところだけ、訊いてみる。
「一時的に子供を預ける施設です。産休育休制度と共に作りました。主に朝から夕方までの時間帯に、専門の職員が子供達の世話を担っていただいています」
学校は俺の故郷にもあったが、託児所は初めて聞いた。
言葉を話せないほど幼い時から預けられるのは、どうなのか……いや、稼がないと育てられないのも事実か。難しいな。
エルフの場合、長命のために子供が産まれるのに間隔がある。町の方だと10年に一度くらいだ。その分、俺の住んでいた村や周辺の町では一人一人を周囲の仲間と共に大事に育てている。近所の姉ちゃんも、俺が起こした騒ぎ以降は皆が全力でサポートしてくれた。どうやら産後の姉ちゃんに気を遣わせないために、皆は頃合いを見計らっていたそうだ。それが裏目に出たので、大人達は反省していた。
けれど同種の中でなら上手く回る仕組みも、多様な人種の暮らす居住区ではうまく機能しない。
冒険者ギルドは各地に点在し、小さな村にも派遣されているらしい。
俺の故郷に冒険者ギルドは無く、大きな町経由でレファースに行き着いたので詳細は分からないが、魔物や天災の被害を確認する為にギルド職員が出向いているのは確かだ。そうでなければ、被災地への物資の運搬や人命救助のクエストが即座に発行されない。
それを思えば、ギルドの職員として各地を転々としていたら、子供を育てるのは難しいから辞職するしかないんだ。
ライセンスの話しからして、職員は優秀な人ばかりだ。座学に性別は関係ない。戦闘面に差は出ても、補える力を持っている。出来る人が1人でも多い方が良いに決まっている。
彼、彼女達を手放さない為に、マスターが制度を講じたんだ。
「育休は男性が取ることも可能です。父親ですからね。子育てだけでなく、満身創痍の奥様のサポートをしてもらうよう教育も施します」
俺の父さんも1番目の兄さんが産まれた時に、祖母ちゃんから家事と育児を叩き込まれたと聞いている。あの浮気クソ野郎を思えば、教える誰かは必要だ。
教えたところで何も感じない無神経で自己中心的な奴もいるけど、やるとやらないとでは出来る人の数は違ってくるはずだ。
「休暇を取得した場合、欠員が出ますがその際はどうしているのですか?」
「重要な業務は職員が分割して担当し、簡単な仕事はアルバイトの方々に任せています。小さなお子さんがいるご家庭は短時間の勤務を希望されるので、その都度調整しています」
人数に余裕があり、幅広い人材を雇用している様子だ。
沢山雇用しているなら、その人たちから職場の様子を聞いて、応募してくる人も多そうだ。
倍率はどのくらいだろう。考えただけで、怖くなってきた。
「女性だけでなく、男性の職場環境の改善にも尽力しています」
やっぱりそうなのか、と身を乗り出す気持ちで耳を傾けようとした時、
「すいません! マスターに至急お伝えしたい事が!」
扉を開けて、あの時とは別の足長族の若い女性が入って来た。
「入る時はノックをしてください」
「す、すいません。でも、王宮から手紙が来まして……」
女性の手には、上質な白に金色の装飾が施された封筒が握られている。
見た目からして、緊急事態ではなさそうだ。もしかして、王城で開かれる催しものの招待状か?
「至急確認して、返事を書いた方が良いと思って、その……」
面接と知らなかったのか、気まずそうに俺とラシエラさんを交互に見ながら女性は言った。
「クシュルさん。少々待っていただけますか?」
「は、はい」
ラシエラさんは女性から封筒を受け取り、一瞬にして燃やした。
「はぁ!?」
俺は思わず声を上げ、女性は驚きのあまり口を手で覆った。
王宮からだぞ!? 不敬罪とか、何か罪に問われないか?!




