第3話 いざ応募
「あのー、すいませーん」
「ようこそギルドハウスへ! ご希望のクエストは見つかりましたか?」
声を掛けると、受付カウンターの足長族の女性がにこやかに挨拶をしてくれる。
「ギルドの職員募集の張り紙を見たのですが、まだ受け付けていますか?」
「はい。受け付けていますよ。審査が必要ですので、日を改める事になりますが、宜しいですか?」
「はい。大丈夫です」
面接と筆記テストだろうな。宿に帰ったら、色々本を読んでみよう。
「それでは、まずはこちらの紙に、記入をお願いします」
俺は差し出された紙と羽ペンを受け取る。
履歴書だな。エルフの国を出国する時に、似た感じの紙に記入した覚えがある。
ここで文字の読み書きができるか判断しているのだろう。年齢、性別、種族と俺は綺麗な字を意識しながら書き始める。
北大陸では、母国語と世界共通語の二種の読み書きを義務教育で教わる。
田舎で暮らしていた俺でも一通り教えてもらえるくらいに、国は教育や福祉が手厚かった。世界有数の国力を持つエルフ族として、だけでなく魔術を扱うには二つの言葉を覚えている必要があるからだ。
魔術は言葉と意味に魔力を乗せる。意味を知らないと威力が弱まり、言葉を間違えると不発や暴発などの事故を招きかねない。だから、しっかり理解する為にも文学、言語学は必要なわけだ。
エルフだけでなく、ドワーフやハーフフットにも独自の原語がある。特に厄介なのは。足長と獣人だ。足長は世界各地に居るので、独自の文化と文明によって語学が育まれている。獣人は動物達の様に〈鳴き声〉でも会話が出来るので、人種によっては聞き分けが難しいらしい。知見を広めるためにも、お金が貯まったら世界を旅するのもアリだな。
「書き終わりました」
「ありがとうございます」
受付の女性は、記入抜けが無いか確認をしてくれる。
「はい。大丈夫です。面接は明後日の昼から受け付けていますが、ご希望はありますか?」
「特に指定は無いので、なるべく早くお願いします」
筆記試験は無いのか。いや、履歴書自体が筆記試験か?
「わかりました。それでは、明後日の昼にまたお越しください」
俺は小さな木の板を受け取り、ギルドハウスを出た。
二枚を一つに貼り合わせた丸い形の木の板には、表に4匹の竜と一本の剣で形作られたレイフォースの紋章、裏に日にちが焼き印されている。僅かに魔力を感じるので、おそらく張り合わせた箇所に魔方陣が書かれている。
偽装対策と証明証を兼任し、日にちを焼き印する為だろう。
絶対に採用…………あっ、クエスト受けるのを完全に忘れてた。今日は魔術道具屋の手伝いをしよう。
そして、2日後の昼。再びギルドハウスへやって来た。
中は相変わらずの賑わい。昼から酒を飲んでいる人もいれば、野外クエストに向かうのかテーブルに地図を広げて作戦会議をしているパーティがいる。
今回も、あの4人がいない。ダンジョンに潜っていると3、4日地上に出られないことは、良くある。どこかで魔術師勧誘して、再挑戦しているのだろう。
「すいません。面接をお願いしているクシュルです」
受付をしている丸く少し大きめの耳が特徴のハーフフットの女性に、木の板を見せる。
「クシュル様ですね。係の者がご案内しますので、少しお待ちください」
木の板を受け取ったハーフフットの女性は、中で何か書いている足長の若い女性に声を掛けた。その女性は足早に、さらに奥の部屋へ向かう。
各地の冒険者ギルドには、それを統括するギルドマスターがいる。かつては優秀だった冒険者が任命される事や、ギルド協会の職員から選ばれたりする。
ここのマスターは、長命種の魔術師。冒険者のライセンスは返却していないので、現役だ。
なんと星5の上である白星!
世界でも指より数える程度の実力者で、生きる伝説みたいな人だ。
しかしながら、残念な事に俺は一度も見たことが無い。なにせ、マスター氏名で依頼が多数送られてきている。小耳に挟んだところによれば、天変地異を起こす竜種の討伐や未開の地の探索など、最高難易度ばかりだとか。冒険者と言うよりは、世界の守護者だな。
移動に次ぐ移動に山の様なクエストで、マスターは一年以上ギルドハウスに居ない事がざらなんだ。
でも、今日は面接だから、会えるかも……!
「おまたせしました」
奥の部屋から出てきた女性は、俺を中へと誘導してくれる。
「ギルドマスターがいらっしゃいます。お優しい方ですが、失礼のない様にお願いします」
「は、はい!」
急に厳かな雰囲気となり、俺は姿勢を正した。
そして、女性はゆっくりと扉を開けた。




