第26話 手話に似てるだけで人間の手話じゃないので注意
隊列で俺とカインの視界が塞がれないようにメディギスには一番後ろにするべきだが、前に行ってもらったのは理由がある。
簡単に言うと、野生の世界ではデカい奴が強く、周囲の生物は避ける。
当たり前な話ではあるが、俺達人間だって身長が高くて筋骨隆々な奴がいたら、自然と威圧されたり、警戒したりするものだ。返り討ちに遭うのは目に見えているから、下手に挑発して喧嘩もしない。
その心理を利用して、魔物達にメディギスさんが群れのリーダーって見せかける。
まぁ、初心者向けのこの森でしか通用しない作戦だ。
そうして問題なく森の中を進んで行くと、徐々に水の流れる音が聞こえてくる。
「川に着いた」
メディギスさんが俺とカインに声を掛けてくれた。
森を抜けると大体幅3メートルの穏やかな流れの川が現れる。
「待て」
橋を渡る前に、メディギスさんが止まった。
何かいるのかと思ったら、大きく深呼吸をして、
「オオオオオオオオオオォォォォォ!!!!!」
低めの声で大きな雄叫びを上げた。
思わず耳を塞いだが、それでも肌がびりびりと振動する位に大きな音量だ。
叫んだとほぼ同時に、木に止まっていた鳥たちが一斉に飛び立ち、警戒を呼び掛けている。
これが〈威嚇〉って技になるか。
足長族の男性でたまにやる人がいる、とは聞いていたが実際に見るのは初めてだ。自分の強さ、存在を周囲に伝えて、怯え、警戒させ、近付けさせないようにする。やり方によっては、相手の意識を自分に向かせる為に使われる。
実際に聞いて体感すると、技が生物としての本能に呼びかけているのが良く分かる。俺も身が竦んで、思わず身構えそうになった。これなら魔物と遭遇する確率がぐんと減るはずだ。
「これでいいだろう。行くぞ」
「ありがとうございます」
よし、これで! と思ったが、俺は一歩足を踏み出せなかった。
「どうした? 行かないのか?」
「悪いが、少し静かにしてくれ」
カインの呼びかけに対して、俺は人差し指を口元に置いた。
なんだ? なんか、おかしい。
森は静かだが、メディギスさんの威嚇が原因じゃない。
俺達を見ている。
「いる」
メディギスさんがそう言った瞬間、上空から何かが橋へと落ちてきた。
「な、なんだ!?」
驚くカインをよそに、メディギスさんは俺に目線を送る。
俺がここへ来た理由は、妖精の知識があるからだ。
「確認する」
警戒しつつメディギスさんの隣に立つと、橋の中心にその人は立っていた。
赤みのある木を彫って造られた不思議なお面。上半身全体を隠す様に膨れ上がった複数種の葉っぱを重ねて作られた服。身体は木の幹の様であり、水鳥の足の様に細長い枝の足には人間と同じ関節らしき部位も見受けられる。蟹股で猫背気味の姿勢だが、真っ直ぐに立てばを優に超える大柄だ。
その外見は目撃情報と男の子の証言に、所々に合致している。
樹の人。ドライアドだ。
「2人とも、下手に動かないでくれ」
敵意は無さそうだ。俺は慎重にドライアドの元へ近づいた。
ドライアドは木々と命を共有する、もしくは木そのものとされる。人間の精気を吸い取る精霊だ。
ただし、それは一般的な知識。実はノームやサラマンダーと同じく、共通語では同じ名前でも、妖精と精霊では生態が全く違うんだ。
妖精のドライアドは、母なる木から種として産まれる。成長すると仲間のドライアド達の輪に加わり、文化を学び、森の守護者として生きていく。そして、母なる木が死を迎えた時、ある者はその地の新たな母なる木となり、ある者は森の外へと旅立つ。
もっと複雑ではあるが、ここで重要なのは彼らに文化があることだ。
妖精は様々な言語を使う。唸るような声。手話に似た動き。光の点滅。木や石を叩く音。他にもあるが、俺が扱えるのはその4つだ。
あのドライアドに4つのどれかを使う文化があれば、俺は対話が可能だ。
俺が勝手にやっては、相手は警戒するよな。
相手の出方を伺うか?
カラ。カララララ。
俺が迷っていると、そのドライアドが顔を軽く右に傾けた。木管楽器を鳴らしたような音が響いた。
そして、おもむろに細く長い指を動かす。
〈私の言葉、わかるか?〉
自分を右手の一指し指で指し、左手を握っては離すポーズ。
対話可能!! ありがとうございます!!!!




