第25話 全然見つからない
広葉樹を中心とした南東の森は、人が頻繁に足を踏み入れるので地面が踏み固められて道が出来ている。遭難しないよう所々に案内の立札があり、まさしく初心者向けのエリアだ。
静かな森だが、今はスライムの大量発生中。普段は木や石の影に隠れているスライムが道を跋扈している。1匹、2匹どころではなく、視界に入るだけでも40センチくらいのスライムが20匹はいる。陸亀のように遅い様でなかなかに速い速度で移動するので、気を付けていないと踏んでしまいそうだ。
木を登っていくやつもいるから、頭上も注意しないと。
「まずはギルドに寄せられた目撃情報のあった地点へ行ってみよう」
俺達はスライムを避けつつ、チャチャさんの先導のもと森の中へと入っていく。
どこもかしこもスライム。確か卵生のはずだけど……ここまで増えるって本当に不思議だよな。
「本当に多いですね」
足元を通り過ぎようとしていたスライムを取ってみる。
ブヨブヨでプルっとしたゼラチン質の身体に、核である球体が入っている。
スライムにも幾つか種類があって、薄っすら緑色のこいつは無害なタイプ。危ないのは黒かったり、金属っぽい光沢のあるやつだ。実際に見た事は無いが、毒性がありほんの少し触れただけでも火傷の症状が出るらしい。
「スライムは普通か?」
「そうですね。変な奴はいなさそうです」
大量のスライムを隠れ蓑にしてるってのもありえるか。
メディギスさんと話しつつ、20分程歩くと目的地へ到着した。
目的地には〈ゴミは持ち帰りましょう 冒険者ギルド〉と書かれた木製の立札が地面に刺さっている。その隣には湧き水の出る小さな泉があり、貴重な水源として守るために設置されたみたいだ。
「冒険者の話しでは、水を汲んでいる時に、向かい側の水面に大きな影が現れたらしいよ。大きさはこの小さな湖を覆うくらい」
木々の間から日差しを受ける泉は、大きさは30センチ、深さ15センチくらいだ。透明な水の中へと太陽の光が射しこむので、俺の影もはっきりと底に映し出されている。
「大きな影の存在は、その後どうしたんですか?」
「冒険者が顔を上げた時には、いなくなっていたってさ」
その他にも、木から木へ飛び移る様な大きな影を森の道中で見た。枝とは違う細長い何かが木にぶら下がっているのを遠くで見た。鳥の声とは違うカラカラと鳴る音が聞こえた。スライムとは別の、重い何かが地面を這いずる音を何度も聞いた。
そんな目撃情報が次々に上がったらしい。
木から木へ飛び移った影は、男の子の言っていた存在か? たった一日でそれなら、調査が必要と思うよな。納得。
「痕跡らしきものは……ないですね」
向かい側に移動してから、周囲を確認する。
足跡、踏みつけられた草や折れた枝などは特にないな。換毛期なら羽や毛の塊が落ちてることもあるけど、それも無し。
木の上に居たやつを近くに居ると勘違いしたとすれば、痕跡は残らないな。
「無いなら別の所を見に行こうか。ここを起点に、二手に分かれよう」
チャチャさんはそう言って、パーティを二つに分ける。
俺とメディギスさん、カインと治癒魔術師の女の子。そしてチャチャさんの元に女の子2人。
「えっ、俺の方に前衛2人来てますけど」
「クシュル君には、奥の方に行ってもらうから。私達は出入り口の方面」
森の出入り口の道中は魔物と言ってもスライムだけだから、戦力を割くなら奥地に行く方に前衛職を2人置きたいよな。納得した。
「地図は?」
「ありますよ」
俺はズボンの右ポケットから折り畳まれた地図を取り出して、開いた。
南東の森を進んで行くと川があり、その先にまた森が広がっている。その奥の森一件だけ目撃情報がある。仁王立ちした熊の様な影が、遠くに見えたらしい。しかも10分以上だ。
「その地点まで行ったら、直ぐに泉に帰って来てね」
歩いておよそ30分かな。チャチャさんが教えてくれたのは、クルミの木が沢山生えている地点だ。人間が植えたのではなく、小動物が冬ごもりの為に土に隠したクルミが芽を出して出来た場所だ。今では秋になると、冒険者の採取クエストとして出される位に沢山採れている。
「わかりました」
カインといるのは少し気まずいが、ここまで問題なく来れたんだ。仕事なのでちゃんと割り切ろう。
「リーダーはクシュルがやってくれ」
「え?」
折り畳んだ地図をポケットに入れた時、ぼそっとカインが言った。
俺が、リーダー?
「いいのか?」
「ギルドからの依頼なんだ。関係者の指示に従う」
久々に見る真面目な顔だ。
やっぱり、俺が脱退した後、カイン達は経験を積んで成長したんだ。
「わかった。それじゃ、移動中は先行をメディギスさん、後方をカインに頼みたい。俺は2人援護をする。奥の方は、いつもより魔物の出現確率が上がっているからな。固まって歩こう」
2人は俺の意見に同意し、隊列を作る。
橋を渡ると、なぜかスライムが一気に減る。現在の奥の森には〈スライム大量発生から逃げてきた〉だけでなく、〈スライムの核を食べに来た〉〈その両方を狙って来た〉の2パターンの魔物もいるので増えている。
人間の味を覚えているような危険な魔物がいない限り、そんなポンポンと出てくるとは思えないが、油断は禁物だ。
「水を補給したら、行こう」
のどを潤し、水筒に水を汲み終えた俺ら三人は、チャチャさん達と別れて奥へと歩き出す。




