第19話 うまい昼食
「おっ、新人さんいらっしゃい!」
食堂のカウンターにて、足長族の恰幅の良い女店主さんが俺を迎えてくれる。
カウンターテーブルには、AからEまでのセットと単品料理のメニュー表が置かれている。
「こんにちは。えー……Cランチのセットください」
「はいよ! Cランチー!」
よく通る声が響き、厨房から〈はーい〉と男性の返事が聞こえてきた。
料金の話しをされなかった。本当に、職員は無料なんだな。
「テーブルに持って行くからね」
「よろしくお願いします」
俺は空いている席へと移動し、料理が来るまでの間にクエスト内容を頭の中で確認する。
街とその周辺の情報と経済がとても詰まっていた。
最近、南東の森でスライムが大繁殖しているのが発見されたらしい。雑食性のスライムによって森の中が食い荒らされ、自生する多数の薬草が減少している。動物も食べ物が減って移動を始めた。
それで、自分達でもやっているが間に合わない、と狩人からの討伐依頼が入った。
それをきっかけに、街の住人が動き出す。
噂を聞きつけた錬金術師から、新鮮なスライムの素材が欲しいと依頼が来る。
討伐後の綺麗な状態のスライムが欲しい、と食品加工会社から依頼が来る。
薬草を高値で売る算段なのか商人から、採取依頼が来る。
商人から買い付けるのでは高いので、薬剤師や医者から採取依頼が来る。
南東の森に入りたい生物学者から護衛依頼が来る。
関連の依頼はここ2~3日の間に発行されている。
1人が発見して情報が流れたにしては凄まじい速度だ。気になって過去のクエスト表を軽く見せてもらったところ、街の人達が熟知する程にスライムの大繁殖が5年に一度の周期であるのが分かった。
他にも、護衛依頼について波がある事に気付いた。二か月後の特定の日にちに、予約依頼が集中しているんだ。毎年この日に依頼する常連の依頼主もいるそうで、二つ離れた町で盛大な祭りが開催されているとのこと。それに伴い安全確保の為の魔物の討伐依頼や、物資を確保しようとする商人達の動き等、色々と読み取れる。
ダンジョンにしか目が向いてなかった俺にとって、経済の動きを目の当たりにして凄く新鮮だった。
冒険者ってダンジョンに潜るか未開の地を探索して一攫千金のイメージ有るけど、視点を変えると便利屋に早変わりだ。
「おまたせ! Cセットの厚切りベーコンエッグサンドだよ!」
「ありがとうございます!」
俺の前へとドンっと料理の乗った皿が置かれる。
軽く炙ったパンの間には、一センチはありそうな厚切りのベーコンと目玉焼き、食用の疲労回復効果がある薬草が挟まっている。
「大地の恵みと命に感謝を!」
早速一切れ齧り付く。
甘辛いソースと歯ごたえのある厚切りベーコンの油と塩加減、粗びきの胡椒と卵の甘みが最高!
目玉焼きは、スクランブルエッグかオムレツに変更できるから、また注文しようかな。
付け合わせのフライドポテトと輪切りの林檎味も嬉しい。林檎はくし切りのイメージが強かったが、皮にも栄養があるというし、薄くて食べやすいので今は慣れた。
「クシュル」
「メディギスさん。こんにちは」
一切れ食べ終えたところで、メディギスさんがやって来た。
「となり、座って良いか?」
「どうぞどうぞ」
高さやサイズ合うのかと一瞬心配になったが、メディギスさんは器用に椅子へ座った。慣れていらっしゃるんだな。
「身体は痛くないか?」
「動けるまで回復しました」
「よかった」
「そういえば、挨拶をした日に解体場で毒の騒ぎがありましたが、大丈夫でしたか?」
「魔物の素材で中和したと聞いた。行った時には平気だった」
「へぇ、そんな素材があるんですね」
「毒を食べる魔物の膜らしい」
膜? 皮膜か? それとも濾過みたいな器官があるとか?
「色んな魔物が解体場に集まっているんですね。はじめて聞きました」
「ダンジョン生まれは沢山だ」
中級の下層か上級ダンジョンの魔物だろうな。最上級はあれだったし、多種多様の魔物が集結しているみたいだ。
「はい! お待ちどうさま! AとBのセット大盛だよ!」
ドンっとメディギスさんの前に料理が置かれる。
おぉ……やっぱり、身体が大きいから食べる量も多いな。流石だ。
Aセットのステーキとパンとサラダに、Bセットのフィッシュアンドチップスに野菜スープを頼んでいる。しかもステーキとフィッシュフライは3枚追加、ポテトとスープは大盛だ。
戦士や剣士などの前衛の人は体力の消費が激しいので、大盛りの注文をするのを耳にしていたが、メディギスさんはその倍だな。
女性でこれだから、オーガの男性はさらに倍? 1人宴会場だな。
「いただきます!」
パン! と大きな音が鳴る程に勢いよく手を合わせたメディギスさんは、ステーキ一枚をたった二口で平らげた。
音に驚いた何人かの冒険者がこちらを注目しているが、彼女は一切気にせず食事を楽しんでいる。俺も食べよっと。
「こ、こんにちは」
サンドイッチの二切れ目を食べ終えた時、レムアさんが俺達に声をかけてきた。
「えと、その……こういう場所で食事をするのは初めてで、近い年頃の子がいないものでして……」
もごもごと言いながら、周囲を気にしながらレムアさんは緊張している様だ。
「俺達、同期ですもんね。どうぞどうぞ」
隣町から来て、慣れない職場で1人きりだと不安になるよな。
「たくさんで食べた方が美味しい」
メディギスさんも快く賛成してくれて、良かった。
「ありがとう、ございます」
レムアさんはメディギスさんの隣へと遠慮がちに座った。
「おい、エルフが女を侍らせてるぞ」
遠巻きに男の声が聞こえてきた。




