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田舎者のエルフは冒険者ギルドに就職します!  作者: 片海 鏡


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第18話 山を崩して地道に攻略だ

 風王竜の逆鱗。胸部にあるとされる風の力を宿す逆さ向きに生えた鱗だ。

 換金する手もあるが、杖の修理用に貯めていたお金が手元にあるので困っていない。それならガンデンさん達に加工してもらって装備品に、と思ったが今の俺には手に余る。

 乗馬初心者に、足が速くて丈夫な暴れ馬を宛がう様なものだ。強い装備品を持てば、自分も強くなるってわけじゃない。その力に振り回されて、自滅ってパターンもあるんだ。

 素材とはいえ、所有するのは憚られる。なので、俺が星4か5になるまではゼルレオスさんに預かってもらうことにした。

 そうして一件落着し、その日は筋肉痛でほとんど動けなかったので病室で休ませてもらった。

 翌朝になると痛みが緩和して動けるようになった。ようやく仕事開始だ。


「今日から働くクシュル君だよ」

「クシュルと申します! よろしくお願いします!」


 朝から起きているゼルレオスさんと職員の皆さんに挨拶をした。5名の職員の皆さんは、マスターの強行と俺の筋肉痛の事情を把握している様で、温かく迎え入れてくれた。


「体は大丈夫かい?」

「はい。動ける程度には、回復しました」

「無理は禁物だからね」


 ゼルレウスに案内されたのは、俺の用の事務机では無く、壁際の大きな棚が3台並んでいる。郵便屋にある手紙仕分け用の棚によく似ているな。

 棚の上には星の数が、枠には細かな項目が掛かれた木の板がそれぞれ張り付けられている。


「仕事は簡単なモノから始めよう。まずはクエストの仕分け。この街や周囲について情報を頭に入れてもらうからね」

「はい!」


 棚の横に置かれた机には、書類の山脈が築かれている。

 星1から5まで全部か。相当な数だな。何千件だ? 


「これは、今後二か月分のクエストなんだ」


 ゼルレオスさんは、クエスト発行の流れについて軽く教えてくれた。

 大抵のクエストは〈発行してください 〉とお願いして、職員が直ぐに発行するものではない。依頼主の身元がはっきりとしていて、ちゃんと報酬が支払えるのか、クエストの発行理由はどんなものか、様々な項目で審査される。犯罪の片棒を担がない為だ。

 魔物や災害の様な突然のものは即時で発行されるが、大抵の依頼主は長い目を見てクエストを発行してもらっている。マスター、サブマスターの独断もあるが例外中の例外だ。


「同じ星の中でもクエストの難易度が違うから、このクリップボードの案内を参考に、紙を棚に入れて行って欲しいんだ。一日で終わる量では無いから、まずは手前の5山を片付けるのが目標だよ」


 よく見ると山とその後ろの山は、10センチくらい離されて置かれている。


「質問しても良いですか?」

「うん。何かな?」

「ここまで細かく分ける理由を教えてください。掲示板に貼り出すなら、星の数と依頼内容で分ける程度で良いのではないでしょうか?」


 星の数、討伐や採取などの内容だけではない。銀貨1枚から5枚、6枚から10枚など金額によっても枠が仕切られている。そこまでする必要性が俺には分からなかった。


「掲示板に貼りだすのは、星の数さえ合致すれば手を取りやすい内容や急ぎのクエストなんだ。残りは受付の子が管理して、冒険者の要望に沿ったクエストを提供しているんだよ」

「えっ、受付の人ってクエストの手続き以外にも、相談役をしているんですか!?」

「そうだよ。あれ、知らなかった?」

「は、初耳です」

「ライセンスを渡す時に、何でも相談してくださいって必ず伝えているよ」


 クエストカウンター横の本棚へと案内され、ゼルレウスさんは一冊手に取り、俺に渡してくれた。それは本では無く、穴を開けた書類を綴じるファイルだ。見せてもらったのは完了したクエストのファイルではあるが、〈魔物を剥製にしたい。綺麗に倒して持って来てほしい〉などの条件が特殊なクエストが多めだ。そして報酬金額は掲示板より圧倒的に高い。

 知らなかった。でも、それらしき冒険者を何回か見かけた。受付の人が分厚い本を広げて、冒険者が其れを見て指を差していた。地図か魔物図鑑を照らし合わせながら情報交換をしている、と思っていた。あれは、クエストを選んでいたんだ!

 訊いてみるって大事なんだな。もう少し良い稼ぎ方できたかもしれない。悔やまれるなぁ。


「冒険者として活躍するにも、為になる情報が転がっているから学んでいくと良いよ」

「はい!」

「それじゃ、後は頼んだよ。情報の漏洩は絶対にダメだからね」

「はい! もちろん。わかっています!」


 ゼルレウスさんは満足そうに頷くと、ソファに座ってとうたた寝をし始めた。

 速攻で放置か……まぁ、仕分けだから、そんなに難しくは無いか。案内に目を通しながら、まずは一山分を攻略しよう。

 軽く何枚か手に取って確認、と。

 あっ、もう星の数は振ってあるのか。でも討伐や採取が混在しているな。討伐する魔物が同じでも対象の地域が違う。ダンジョン産の魔物に関する依頼もあるな。依頼主によって討伐数や採取の数も違いがあるし、締め切り日数や条件、報酬もそれぞれ……

 うわぁ、確かに掲示板は、手に取りやすいクエストだけ貼っている。

 同じ星でも難易度が違うって話も、納得だ。

 基本的になりたての星1と2へ昇格手前の冒険者では、経験も熟練度も違う。さらに昇格手前ならダンジョン攻略を視野に新しい装備品買いたくて、星1の中でも報酬の高いクエストを選ぶようになる。

 そこに緊急で討伐や捜索の依頼も入って来る。対応して適切に処理をする職員さん達すごいな。俺もいつかはクエストの発行に携わるのだろうか。なんかワクワクする。


「クシュルさん。そろそろ休憩してくださいね」

「はい。お気遣いありがとうございます」


 黙々と作業をしていると先輩のハーフフットの女性が、声をかけてくれた。

 ん? 今何時だ?

 壁掛けの大きな時計を確認してみると、長い針が〈12〉を指そうとしていた。俺が作業を始めたのが確か9時だ。お昼だし約3時間もやり続けていれば、声を掛けられるか。

 同じ姿勢で作業をし続けていたから、軽く体を解して……いてて。筋肉痛だったの忘れていた。


「サブマスター。俺はいつ昼の休憩に入った方が良いでしょうか?」


 新人アルバイトとはいえ事務の職員の一員だ。勝手な行動は良くないので訊いてみる。


「んぁー?」

 情けない声を漏らしながら、ゼルレウスさんは起きる。


「最初の内は12時でぇ……」

 そう言って、力尽きるように再び寝た。

 ……色んな意味でメリハリのある職場環境だな。

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