第64話 歩ききれなかった話
筋肉痛も引き始め、ようやく日常に戻ったある日。
いつものようにコンビニのイートインで昼を食べていると、
『よう、tetsu。不味いところ見られてしもうたな』
山田さんだった。
店の奥、外からは見えにくい席で、唐揚げを齧っていた。
「お久しぶりです。お身体いかがですか?」
『ボチボチじゃ。じゃが杖はまだ手放せんがの』
そういって立て掛けてる杖をつついた。
でも、今は病院でも昼食時じゃ?
「お昼ご飯じゃないんですか?それに、澪さんは?」
バツが悪そうな顔をして、山田さんは急に早口になって『あいつはワシの監視役じゃない。忙しいのじゃ』
一拍おいて、付け足すように
『それにササミは筋肉に良い。……病院じゃ出て来ん』
……抜け出してきたらしい。
「トレーニングメニューのようですね」
気づかないふりして続けた。
『当たり前じゃ。早く足腰戻さんといかんからの。それよりtetsu、100km完歩ようやった』
「ありがとうございます。タイムオーバーでしたけどね」
『歩ききる事が大事なんじゃ。ワシはまた歩けなんだ』
少し俯く山田さん。
『……少し、昔話でもするか』
俺は頷き、隣に座った。
『ワシは、昔庭師をしておっての。これでも御贔屓さんの多かった。じゃが、群れるのが嫌いじゃったワシは独りで仕事しとった』
昔から変わらないらしい。
『弟子入りもせずに、見かけた他の職人の技を盗んで自分なりに工夫してやっとった』
『そんなワシじゃから弟子もとらんかったが、どうしてもしつこいヤツがおって、半年間辞めんかったらっちゅう条件で仮の弟子入りを許可した』
「お試し期間ですね」
『そいつはお前と同じ“哲”っちゅう名でな』
俺は山田さんが呼んでるだけだが
『そいつも不器用でな。ようワシはぶん殴っとった。じゃがどんな事があってもへこたれんかった』
『そんな哲も、一度逃げ出した時があってな。直ぐに戻ってきたんじゃが、約束じゃから破門にしたんじゃ』
『何度も謝るが、タダで戻すわけにもいかんかったから、たまたま100kmウォークのポスターを見かけたワシは完歩できたらと条件を出したのじゃ』
「それで?」
『ワシもまだ若かったから、説教と監視を兼ねてワシも参加する事にしたしたんじゃ。しかし、当日御贔屓さんからの急な依頼が入ってな。ワシは行けんかった』
『哲は参加したんじゃが、ワシがおらんのに真面目に歩いてな。途中で体調を崩したらしいが、それでも歩き続けたそうじゃ』
「それで?完歩したんですか?」
『最後はフラフラになっとったらしいが、最後の休憩中に気を失ってリタイアじゃった』
山田さんは本当に辛そうに呟いた。
『幸い、大事にはならんかったんじゃが、それ以来哲は連絡を絶った。もし、ワシが一緒なら完歩しとらんでも止めて認めるか改めて他の条件出しとったんじゃが。あのバカが!』
そう言って山田さんは机を叩いた。
『……またですか』
不意に後ろから澪さんの声がした。
『tetsu、この裏切り者!』
『はい、言い訳は帰って聞きますから。tetsuさんありがとうございました』
山田さんは連れられていった。話を聞きながら澪さんにメールをしていたのだ。
どっちが不器用なんだか⋯




